ああ、嗚呼、なんということでしょう。
いきなり一目惚れしてしまいました。
もうこれは恋ですよ。コイ。カープ。
好きになったのは、その名も山葡萄(やまぶどう)。
濃い紫色で、乾くと、光沢すら感じさせる黒色になります。
え、何の話かって?
パイロットから発売された、日本の美意識から生み出された、万年筆のインクの話です。
始めに断っておかねばなりません。
わたしは、万年筆は好きですが、多くの適当な万年筆についてくる「ブルーブラック」インクという色が、子供の頃から好きではありませんでした。
なんだか、青っぽく黒い、どっちつかずな色に欺瞞(ギマン)を感じていたのですね。
大人になってもそれは変わりません。
どうせ使うならインクは黒です。
銘柄は、深みのある漆黒さが好きで、長らくモンブランの黒を使っていました。
赤は別になんでもいいので、値段の安いパーカーを使っていました。
最近になって、黒は、セーラーの超微粒子漆黒インク「極黒」(キワグロ)を使いはじめましたが、あれはいい。
ともかく、黒い上にも黒い。
ほら、よく、冠婚葬祭なんかで、男連中が並んだ時、その礼服の値段によって、同じ黒でも、まるで黒さが違うことが明確になるでしょう?
オレのよりヤツのほうが黒い!とかね。
もちろん、わたしのは誰よりも薄い黒です。
礼服なんてそれでいいのですよ。
しかし、インクが、それではいけない。
記録媒体として文字を紙に残すわけですから、クッキリと明快な色の方が良いのです。
長らくそう思っていました。
山葡萄(ヤマブドウ)を試し書きするまでは……
最近でこそ怪しくなってきましたが、かつて、日本には24の季節がありました。
色も同様。
日本の自然(動植物)に根ざした、さまざまな色が生み出され、表現されてきました。
それが、いつのまにか、ブルーブラックだのレッドだのアンバーだのといった、木で鼻をククったような(ってどんな意味?)色ばかりがハバをきかせるようになってしまった。
しかし、今こそ、日本の美しい夜、ではなくて、美しく微妙に綾(あや)のある色の復権がなされるべき時なのです。
万年筆を持つ楽しみのひとつは、書き味が最高なのはもちろんとして、さまざまなインクを使えるということです。
いやぁ、長生きはするもんですよ。
生きている間に、こんな様々な日本に根ざした色のインクを使えるようになるとは、ホント、思いませんでしたよ(ちょっとゲサ?)。
http://www.pilot.co.jp/products/pen/fountain/iroshizuku/
上のサイトには見本がならんでいますが、ホンモノはディスプレイで見るような、単純な色ではありません。
ぜひ、店頭で、実際に書いてみてください。
美しい文字、それは幻ではない!
たとえ字は下手でもね。
そして、インクの色の深さに感動したら、この際、キャップレスでも何でもいいから、日本製の万年筆とコンバーター(これがないと、インクツボインクが使えない)を購入し、万年筆仲間になってください。
是非とも。