世の中には、「トイカメラ」と呼ばれるカメラがあります。
オモチャのようにチープなつくり、おまけに廉価(れんか)で、マクドナルド・カラーのように原色でおもちゃオモチャしたデザインのものから、往年のライカなどを模して、重厚な作りながらワザとオモチャ風にデフォルメしたものまで、さまざまなタイプが発売されています。
しかし、なんといってもその特徴は、安さゆえの部品のバラツキによって、ひとつひとつの光学特性にあり得ないムラがある(意味不明?)、どころか、同じカメラで同じ被写体を撮ってさえ、違う風合いに仕上がる「神のきまぐれ」ともいうべき映り具合にあります。
代表的なものは中国製のHOLGAなどですが、
「ペラッペラの総プラスティック製のため軽すぎて手ぶれしまくり」
「あるまじきタテツケの悪さから、スキマから光漏れして撮影前にフィルム感光しまくり」
「付属するストラップは使うなと説明書に書かれてある(蓋ごと取れるらしい)」
といったアンビリーバブルのかたまりでありながら、その出来上がる写真の中には、「なんちゃってカメラ」と呼ぶことが、ためらわれる秀逸なものがあるのです。
他には、旧ソ連で、正規?のカメラとして作られていたものの、日本製などのマットウなカメラ(タイクツなカメラともいえます)に押されて、売れ行きが落ち込みながらも、そのデキの悪さゆえ、トイカメラとして復活を果たしたLOMOなどがあります。
しかし、これらフィルムで撮るカメラは、現像、焼き増しといったコストがかかるため、気軽に手を出すことをためらう人も多かったのです。
そこで、トイカメラのデジタル版が発売されました。値段は4千円あまり。
VISTA QUESTが代表的なものですが、要するにフイルムのかわりにCMOS受光素子でデジタル化するトイカメラです。
レンズのムラもチープさもだらしなさも全てトイカメラそのもの。
画素数は130万画素(200万画素のものもアリ)で、フラッシュはなし。
内蔵メモリはあるものの、電池(単四一本)が切れると即成仏するために、通常は、SDメモリを差し込んで使います(カメラ本体の大きさ自体、ほとんどメモリと変わりません)。
ファインダーは、ちゃちなプラスチック製の枠のみ。
もちろん撮影後に確認する液晶などなし。
つまり、フィルムカメラと同じく、出来上がる(コンピュータに吸い出して確認する)まで、デキがわからないというデンジャラスなカメラです。
それで思い出しました。
トイカメラでもないのに、偏った光学特性だった高価なカメラを。
ポラロイドカメラです。
ご存じでしょうか?
撮影するとカメラの下から印画紙が出て、それを振っていると徐々に画像が浮かび上がる。
旅先などで現地の人と一緒に写真を撮って、下の余白部分に住所を書いて渡すと喜ばれるカメラですね。
いまや、発売中止となってしまったポラロイドですが(チェキはあるのかな)、感光後即時発色という無茶な化学変化のために、ホワイトバランスや、色の偏りなどは、かなり特徴的で、まるでトイカメラの画像のようでした。
実は、iphoneのアプリケーションには、普通の写真に、ポラロイド風の色変化をさせるものがあります。
まずはごらんください。
これが
こうなります。
なんとなく、下の方が味がありますね。
かつて、カメラは芸術ではなく、風景・人物を正確に記録するためのキカイとして世に生まれました。
やがて風景を正確に切り取ることに躍起(やっき)となっていた光学器メーカーもユーザーも、芸術の道具としてのカメラの価値に気づき、徐々にその扱いを変えていきます。
そしてついに(特にカメラユーザーは)、野球でいうナックル・ボールのように投げてみるまではどんな球筋なのかわからない、撮ってみるまではどんな画像なのかわからない不随意なカメラの存在を許すほどの成熟を果たしたのでしょう。