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見つけた、見つけた 〜ヘウレーカ〜



ヘウレーカ (ジェッツコミックス)

 これは、あの「寄生獣」の作者、岩明 均の作品です。

 ヘウレカ、エウレカ、ヨーレイカ、ユリイカと様々に違ったいい方はされますが、要は、二千年前に、ある男が風呂に入った際にあふれる湯を見て、王から突きつけられた難問の答えを見つけて叫んだというギリシア語であります。

 素っ裸で風呂を飛び出して、「*****(**は上のどれかです)」と叫んだという逸話を残すこの男こそ、本作の真の主人公(実際は、狂言回しの若者が主人公ですが)アルキメデスです。

 二千年以上前の歴史ともなれば、人名とその生きた場所、同時代の人物との微妙な時間のズレに思い至ることができなくなるものです。

 具体的にいえば、日本史では、遠山の金さんとネズミ小僧が同じ時代に生きていたり、シューベルトとモーツァルト、ベートーベンが同時代(ちょっとずれてますが)だったり、画家のマネが、同じく画家のモネを、自分のマネをしていると避難したり(あれ、逆だったかな)といったことですね。

 彼らが同じ時代に生きて、親交を深め、あるいは鍔迫り合いをしていたなんて、なかなか想像できません。

 地球の、いやそこまで範囲を広げなくても、人類の歴史と比べても、ワン・ジェネレーション30年など、不死人の昼寝程度の長さに過ぎませんが、死すべき運命の我々にとっては、30年どころか15年時代がずれるだけで、人々はすれ違うことすらできなくなってしまうのですから。

 さて、「ヘウレーカ」
 本作では、あの英雄ハンニバルが、アルキメデスと同時代の人間であることが語られ、おや、そうだったのか、とあらためて驚かされます。(もっとも、ハンニバル30歳そこそこに対して、アルキメデス70過ぎの老人ではありますが)

 物語の制作手法、いや、そんな堅い表現はやめよう、いわゆる、とっかかりから考えると、作者、岩本氏がこの話を書こうとしたきっかけが手に取るように分かってきます。

 何を核としてヘウレカという話を作っていくか、(核とは、Z会の国語科でいうところの「イイタイコト」と同義です)が、明確に分かるのですね。

 いったいに、ストーリーテラーの多くは、自分の琴線にひっかかった事象(科学知識であったり、歴史の事実であったり、ちょっとした知人の言動であったりする)を軸にして、ストーリーを考え、あとは狂言回しとしての主人公を、適当に配して動かして(直木賞の某選考委員がこれを知ったら激怒するだろうな。今回直木賞受賞の東野圭吾作品を、例によって『人が描けていない』というワンパターンの理由で排除しようとしたくらいですから)長い話を作っていくものです。

 無論、例外はあります。(特にアクタガワ候補などのジュンブンガク系などはね。彼ら彼女らは感覚で話をつくる)

 さて、「ヘウレ−カ」で岩本氏がひっかかったモノは何か?

 そのヒントは、ラストに記された参考文献にあります。(律儀にも岩本氏は、漫画をかく上での参考文献をきっちりと書き連ねているのです。このあたり「銃夢」の木城氏は見習って欲しいものですね)

 書名が、色々と記載されていますが、その中に「図解 古代・古代の超技術」というのが見えるのです。

 「ヘウレーカ」の中で、我々の虚を衝くのは、科学者(数学者でしたか?)であったアルキメデスが、その科学的知識を用いて、自分の国、シチリア島シラクサを守るために、現代もかくやというような、巨大マシンを作っていた、という点です。

 それも並のマシンではありません。

 蒸気機関を用いた起重機(クレーン)でであったり、回転板用いた岩石射出機であったり、人をまっぷたつにする回転刃であったりする、恐るべきマシンなのです。

 そういったマシン兵器に対する知識のない二千年前の人々の目には、正しく恐ろしげなバケモノに映ったに違いない巨大兵器の数々……。

 これらを、王に頼まれて、もう何年も前にアルキメデスは作っていたのですが、彼自身はこれらの殺人機械を忌み嫌って、その存在すら忘れかけています。

 というか、齢(よわい)七十を越えて、かの天才もボケはじめているのです。

 やがて、紆余曲折があり、結局、街は敵に占領されてしまいます。

 主人公の嘆願もあって、アルキメデスは処罰を免れますが、すぐ後に、街の兵士と些細なことから口論をして殺されてしまいます。

 いやあ、てっきりアルキメデスは毒杯をあおったと思っていたので、これもオドロキでした。(それはソクラテスだって)

 大人気なく兵士に喧嘩を売ったあげくに殺されるなんて、かつて天才と呼ばれた老人としては理想的な死に方ではないですか(個人的にはそう思います)。

「ヘウレーカ」
 単行本一冊にまとまったコンパクトな話です。
 見かけたら立ち読みでも良いですから読んでみてください。

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