見知らぬお家のインターフォンあるいは呼び鈴(古い)をピンポンと押して、そのまま逃げる、多くの人が子供の頃にやったことのある遊びではないでしょうか(え、そんなことない?)。
わたし自身はやったことがなかったのですが、後に、それをピンポンダッシュと呼ぶと知って、うまいこと名付けるなぁ、と感心した覚えがあります。
このピンポンダッシュ、近頃のインターフォンでは、やりにくくなりましたね。
何せ、カメラ付きですから。
機種によっては、押した瞬間の画像を記録して残すものもあるので(我が家のがそうです)、迂闊(うかつ)に「ピンポン」できなくなっています。
ある自宅待機の青年が、いや彼は、いわゆる「引きこもり生活」をしているのですが、このカメラ付きインターフォンで面白い遊びを発見したそうです。
家族が外出し自分だけが在宅している時、宅配業者の訪問を受けた彼は、他人と話すのがおっくうで居留守を使いました。
呼び出しのボタンが押した時点で、ほとんどのカメラ付きインターフォンは、訪問者の姿をディスプレイに表示します。
彼は、そのまま返事をせずに訪問者を観察したのです。
そして、気づいてしまいました。
初めは、訪問者もカメラを意識して、きりっとした顔をしているそうですが、しばらく放置すると、だんだんと本性が現れてくる。
それを観察するのが楽しい、と。
悪趣味なことです。
家には、様々なタイプの訪問者がやって来ます。
一度チャイムを鳴らしたあと、我慢強くずっと待つ人。
鳴らした後で、その場を離れ、しばらくして戻ってきてまた鳴らす人。
しつこく鳴らし続ける人(これに関しては、訪問販売の規制が強化されてからはすっかり影を潜めたらしいですが)。
興味深いのは、留守と判断してからの彼らの行動です。
油断して「素」をあらわし、悪態をつく、壁やドアをけるマネをする者、あるいは本当に蹴ってしまう者――
「居留守のプロ」たる彼には、宅配業者による、はっきりとした違いがわかっていて、「この会社はしっかりしているが、あの会社は乱暴だ」と断定できるそうです。
どうやら、配達人の「素」で会社のカラーが分かるらしい。
面白いなぁ、この人間観察。
話を聞いて、さっそくわたしも一度試してみることにしました。
明らかに届け物があると分かっている、その日、戸外にトラックの音がして、ピンポンの音。
すわ、これぞ好機!
と、勢い込んで、液晶画面の前に立ち、観察しようとしましたが、どうしても待たせることができずに、応答のボタンを押してしまいました。
だって、待たせるなんて失礼じゃないですか。
悪いし。
相手の時間をこちらの自由に使って良いという法はないわけですから。
つくづく人間観察には向かない性格ですねぇ。
いつかわたしも、この人間的弱さを克服して、「ピンポンダッシュ」ならぬ「ピンポンウォッチ」ができるように……ならないでしょうねぇ。