本屋で「岡田斗司夫氏絶賛」というオビの黄色い原作を見てから(表紙だけね。ビニールに包まれていたから中身は未見)ずっと観たいと思っていた映画を、このたび観ることができました。
原作はあのヒューゴー賞を受賞した唯一のコミックでもあります。
監督は、300(スリーハンドレッド)のザック・スナイダーです。
映画を観る前は、ちらと観た予告で、なんとなくバットマンだとかワンダーウーマンみたいなヒーローたちが殺されるサスペンスモノだと思っていました。
実際は……まあ、大筋では間違ってはいなかったのですが、そう単純な話ではありません。
詳しいことは、サイトを検索してもらえれば、公式サイトなりファンサイトで知識を得ることができるでしょうから、ここでは、わたしなりの感想を書いてみます。
わたしは、気に入った映画は何度か観るクセがあります。
もちろん、毎回、正座して観るような真似はしません。
一度目はじっくり観ますが、二度目以降は、BGM的に野球観戦と同時になんとなく流すような観方をします(三時間近い作品ですから)。
居間には、デジタル・アナログ混在で四台のテレビが並んでいます。
うち二台は、CSニュースバード等のリアルタイム・ニュース番組や野球放送を常時表示し、一台は、録りためてあるコンピュータ内の動画をリンクシアターで引っ張り出して表示、残り一台は映画をサラウンド音声で表示しています。
ウオッチメンも、何度か観ている間に、当初は気づかなかった疑問や細かな表現に気づきました。
時は1985年。ところはアメリカ。
しかし、歴史的には、アメリカがベトナム戦争に勝利し、ウオーターゲート事件が起こらなかったために、ニクソン大統領が失脚せずに三期再選するという、時間線が我々とは多少違うパラレルワールドとして設定されています。
登場人物で興味深いのは、なんといっても狂言回したる「ロールシャッハ」でしょう。
ロールシャッハ・テストに似た文様が、ランダムに動く覆面を被った彼は、他のヒーロー同様、不幸な生い立ち故の異常性を秘めた男に設定されています。
(撮影用の彼のマスクには、スパイダーマン同様、アゴなど、顔の線をきれいに出すために、ただの布でなくプラスティックの型がついているようです)
彼の場合は、いたいけな少女が異常犯によって殺害され、犯人が遺体を犬に食べさせたことを知って、ニーチェ的に人間に絶望し(神は死んだ!人間への絶望ゆえに……)精神的超人となった、いわゆる極端な二元論(悪か正義か)に基づく激しい性格というわけです。
彼が悪の側に落ち着かなかったことは賞賛に値します。
また、ロールシャッハは、最初に殺されたヒーロー(コメディアン)の死の真相を捜査するただひとりの違法ヒーローでもあります。
ヒーロー達の、法に縛られない正義活動に危機感を持つ世論(これがあながち間違っておらず、コメディアンは国の手先となってケネディを暗殺し、ウオーターゲート事件の記者を殺害した)に後押しされる形で、77年に覆面着用者による自警活動を禁止するキーン条例が制定されたために、ヒーローたちは引退せざるを得ませんでした。
現在、非合法に活動を続けているのは、正義の人ロールシャッハだけです。
彼にも増して重要なのは、物語世界を我々の生きるこの世界とは違う異世界にしてしまった全身が青く輝くDr.マンハッタンの存在です。
この作品で、本当の意味で超人であるのは、Dr.マンハッタン一人です。
他のヒーローは、オープニングで、引退した老ヒーローが語っていたように、警察官が罪を逃れるために顔を隠して犯罪を犯す者を捕まえるために、自分たちも覆面をしただけの、タダの人に過ぎません。
いわば、バットマンタイプのヒーローなのですね。
Dr.マンハッタンの存在が、ベトナム戦争をアメリカの勝利に導き、バットマンそっくりのナイトオウル(フクロウをかたどったマスクってバットマンのマスクに似てるね。あれ、逆か?)が乗る、我々の科学を超えた空中浮遊マシンを産み出しているのです。
また、同時に彼の存在こそが「ウオッチメン」という物語で起こる事件の原因であり、モチベーションとなっています。
面白いのは、最初、全身を包むスーツを着ていたマンハッタンが、その超人性ゆえに、人間性を失ってくにつれて、パンツ、ビキニパンツ、全裸と衣服の面積が小さくなっていくことです。
結論からいえば、この映画のコピーである「ヒーローが次々と殺される」はウソです。
実際は、コメディアンしか殺されていません。
「ウオッチメン」における1985年時点での世界観を説明しておくと、1959年の核実験事故で生まれたDr.マンハッタンの超能力のため、アメリカはベトナム戦争に勝利した上、彼の産み出す理論によって、科学力がソ連を陵駕していて、二大国の武力均衡は崩れています。
さらに、何かと問題のあるニクソン大統領が複数回の再選を果たしています。
簡単にいえば、ソ連が、Dr.マンハッタンのスーパー・パワーと科学力に対抗するために、必要以上の核を持つようになった上、指導者が無能?な、実際に我々が経験した以上の「核の危機」が世界を覆うようになった陰鬱な「冷戦時代」なわけです。
人々の関心事は、無数にあるソ連の核ミサイルの恐怖と、Dr.マンハッタンの能力が、本当に、全部のミサイルを無効化できるのだろうかということです。
繰り返しますが、「ウオッチメン」の世界は、現実の歴史とは違うパラレルワールドです。リアル・ワールドではアメリカはベトナム戦争で敗北し、つまりソ連が勢力を伸ばし、二大国の科学力は拮抗していました。
こうして、かつてないほど身近に核戦争の危機が迫ったゆえに、ある人物が、その自体を打開するために行動を開始したのです。
その手始めが、隠蔽すべき事実を知るコメディアンの暗殺でした。
「行う所業は悪なれど、その動機は限りなく無私の善」
さて、黒幕は誰でしょう?そして、その真の動機は?
興味がおありなら、是非、本編をごらんください。
長い映画ですが、案外、すっと見続けることができると思います。
映像的には、犯人に追い詰められたDr.マンハッタンが、火星にテレポートし、彼の地でガラス製?の動く巨大モニュメントを精神力で作り上げるあたりが素晴らしいですね。
P.S.
実は、観終わって、あれ、と思いました。
物語の核の部分が、以前に観た「アウターリミッツ」に酷似していたからです。
これは、よくある偶然だったようで、原作者自身も類似性は認めているようでした。