初めの一発は、恥じらう処女から奪う最初の接吻のようなものであった。
徳間文庫 大藪春彦選集「野獣死すべし」より一部抜粋
と、高校生性体験率45パーセントといわれる昨今にあっては、完全に時代錯誤な文章で書き始めてしまいましたが、先日、まったく「そのような気分」を味わってしまったのです。
いや、久しぶりの書き込みだというのに、トートツで申し訳ありませんが、その「久しぶりの書き込み」の理由も、冒頭の一文と関係があるのです。
最近、ブログの更新が滞っていたのは、個人的に、精神的テンションが下降する出来事があったからなのですが、だからといって、わたしは、なにも「石の狸」(沖田艦長語録より一部引用)がごとく、じっと蹲(うずくま)っていたわけではありません。
いや、おそらく、このブログ未更新の日々は、ここ数年で一番活動的であったといっても良いかも知れません。
では、いったい、ナニをしていたのか?
もったいぶらずに書きましょう。
ジスイしていたのです。
思えば、ボーイスカウトの訓練で立ちカマドを作らされ、調整不可能なたき火の炎で、ガンタ(チョーかたいご飯の意)を炊いて以来、幾星霜(いくせいそう)……家にあっても、キャンプ気分でガソリンコンロとチタン・コッフェル(鍋)を使っては、頻繁(ひんぱん)に自炊したものです……
の自炊ではなく、おそらく皆さんご存じであろう、サッコンはやりの自分で本などのデータをスキャンして吸い出しデータ化(自吸い→自炊)する自炊にふけっていたのです。
そう広くもない家の二部屋をつぶし、書庫として使っていますが、そろそろ本の重みで築数十年の家屋に危険信号がともり始めたため、以前から不要不急の本については、フラットベッド型のスキャナでデータ化はしていたのです。
しかし、民生機としては、かなり読み取りの速い部類のEPSON-GT820を使ってさえも、A4サイズの書類の読み取りには時間がかかります。
まして、本一冊まるごとなど、とんでもない。
時間ばかりが無駄に過ぎていくトンデモない作業になってしまいます。
そこで、意を決してPFUのSCANSNAP1500を購入しました。
SCANSNAPといえば、個人で自炊するための定番マシンです。
一応、EPSONのマシンと、どちらにするか迷ったのですが、ここは手堅く定番を購入してしまいました。
ずっと前から購入を検討しつつ、今になってしまったのには理由があります。
もちろん、民生スキャナとしては、値段が比較的高め(4万円台後半)というのも大きな理由のひとつですが、最大の理由は、SCANSNAPがシートフィーダ式のスキャナであるため、本などはそのままスキャンすることが出来ないという点でした。
つまり、本をバラさないと取り込めない。
詳細はこちら↓
http://scansnap.fujitsu.com/jp/product/s1500/
でも、できるなら本はバラしたくない。
個人的に、本は、本の体裁をとってこその本であると思っています。
いわゆる、遊び紙・きき紙などの「見返し」がしっかりとし、「花切れ」が美しく背表紙から見える、そういった本の形をしていてこそ、書物を持つ喜びがあるのだ、と。
しかし、それにしても、もう書庫に足の踏み場がない。
仕方がないので、現実的な判断から、とりあえず初版以外のコミックやマンガ、20年以上前のコンピュータ雑誌(ゴミですよ、はっきりいって)やアウトドア雑誌、ブルータスやポパイなどの「より残し」風俗雑誌は、空気にふれる部分から黄変化もすすでいるために、画像調整しながら、グレースケールで取り込むことにしました。
カバーを取り、表紙に指をかけ、一気に背表紙をむしり……とれない。
なんとなく嫌。
本はコワシたくない。
踏みたくないし、蹴りたくないし、解体すべきではない……旧態依然の教育を受けた弊害ですね。
ですが、賽は投げられた、ならぬマシンは買ってしまった……やらねば、やるとき、やれば、やれ!
えいやっ。
そして、冒頭の一文になるのです。
初めのひとむしりは、恥じらう処女から奪う最初の(以下略)
うは、うはうはうはははは――
一度、表紙をむしりとってしまえば、あとはもう銃の発射感に恍惚となって人を撃ちまくるトリガーハッピーのごとく、狂乱かつ錯乱状態となって、むしりまくってしまいました。
表紙をむしり、手で20枚程度に分割し、カッターや裁断機でノドから3ミリ程度のところを切り離していく。
そして、スキャン。
これがすごい。
動画をご覧になった方はご存じでしょうが、オドロクベキ速さです。
何枚かずつ(公称スペックでは50枚、しかし実際はコミック紙の厚さもあって、もう少し少な目)束にして、ならして入れるのですが、それが追いつかないほど速い。
すごい、すごいスゴイぞ!
連日連夜、筋肉痛をおこしつつ、狂乱的に切り、吸い、裂き、吸い、裁断し、吸いつづけました。
もう脳のどこかからアブナイ物質が出てるって感じですよ。トランス状態ですな。
しかし、よくしたもので、やがてこの作業にもインターバルがやってくる。
こういった自動フィード(用紙自動吸い込み型)マシンの特徴として、ローラーや紙抑えゴムが消耗品として、別売されているということがあります。
ドライバの方でも何枚スキャンしたかが記録されていて、使用者は定期的にその数字を見て、部品交換をするのです。
それこそ一日中、憑かれたように切り、裂き、スキャンし続けるうち、数日して、スキャナが、一枚ずつではなく、数枚まとまって紙を吸い込む(マルチフィード)ようになって、連続スキャンができなくなりました。
調べてみると、紙をおさえるラバー製品が、かなりすり減っています。
そこで、最初に、マニュアルにざっと目を通した時に読み流したドライバの紙カウントを思い出して、調べてみると……79000枚スキャンしていました(ワズカ数日ノアイダニ)。
マニュアルでは、消耗品の紙押さえは50000枚で交換するように支持していますから、マルチフィードするのもあたりまえです。
さっそく、AMAZONで2000円程度の交換部品を注文しました。
注文後、翌日の夜には部品が届きましたが、その間も、マルチフィードをおこさない程度に、枚数を制限しながら、スキャンし続けています。
思ったより早く、交換部品が届きました――が、あれ、初めについていたものより、紙抑えのラバー(ゴム)部分が分厚い。
まさか、よく製品についている乾電池のように、「付属の電池はテスト用ですので、早めに動かなくなることがあります」的に、ショボい部品を使っていたんじゃないだろうね。
ともかく、部品が来たのだから、さらにスキャンを続けるのだ――
コミックスは数百冊(千冊近く)、小説もおそらく読み返さないものは、どんどんデータ化されていきます。
特に、小説は、あとで文字検索できるように、SCANSNAP付属のアクロバット9の「文字認識機能」を使って透明テキストを貼り付けるようにしているのですが、これが「eTypist」や「読んでココ」などの専用OCRソフトより速く、比較的正確なのでナカナカに使えるのです。
そして、先の週末、カラーのスキャン画像に、赤青緑の線が現れました(コミックスの表紙をカラーで取り込もうとして気づきました)。
ずっとグレースケールで取り込んできたため、気がつかなかったのです。
が、そういえば最初の頃に、ゴクウのビッグコミックカラー版を取り込んだ時に、すでに縦のラインが出ていたような気もします。
というわけで、マシンをPFUの修理センターに送りました。
そして、ブログを書く時間が戻って来た、というわけです。
あとは、月に一度の廃品回収日まで数日間、解体した本で一部屋まるまるつぶれた状態を我慢するだけです。
データ化してわかったことがあります。
コミック、特に古いコミックは、背中のノリも弱くなっているため、データ化して、コミック・リーダーソフトで読んだ方が読みやすいのです。
実際のところ、大切なのは、本のカタチよりも中身なのですから(って、最初といっていることが違うじゃないの!)。
少なくとも、どこの段ボールあるいは棚にアレがあったか――と探す手間が省けたのは大きいと思います。
いくつかの作品(全巻)を一気読み(かえし)してしまいました。
修理にどれぐらいの日数がかかるか分かりませんが、とりあえず、それまではブログの更新ができそうです。
ちなみに、冒頭文は、あの(個人的には20世紀最大のヒーロー)伊達邦彦が、デビュー作「野獣死すべし」のエンディング近くで共に銀行強盗をした友人真田を泥酔させて射殺する際に逡巡(しゅんじゅん)する様子を描写したものです。