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傑作舞台の重厚な映画化 「フロスト X ニクソン」

 お気に入りのケビン・ベーコンが出演するということで、映画「フロスト X ニクソン」(2008年)を観ました。

 公開当時から、印象的なコピーとポスター↓で、観に行きたかったのですが、機会を逸していました。

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 同名の舞台を「アメリカン・グラフィティ」のロン・ハワードが監督した作品です。
 って、それは役者としての出演で、監督としては「バックドラフト」(あるいは「アポロ13」「THE MOON」いや「ダビンチコード」?)の方が有名だったかな。

 内容は、ウォーターゲート事件で失脚(1974年8月)しながら自らの非を認めようとしないリチャード・ニクソン元大統領に、「バラエティ番組の司会者」であるデビッド・フロストが、インタビューを通じてその心情を吐露(とろ)させ、事件の核心部分を告白させるという、いわば「ペラペラのコメディアン司会者が精神的巨星相手に挑む心理戦」を描いた作品です。

 ああ、基本的に実話です。

 実際に、その有名なインタビュー番組は残っている。

 舞台でもニクソンを演じたフランク・ランジェラの、ニクソンの心の襞(ひだ)まで入り込んだかのような迫真の演技に圧倒されます。

 自信家で鬱(うつ)気味、非道徳家で良心の呵責(かしゃく)に苦しむ男という、矛盾だらけのOnly Humanな世界一強大な権力を持っていた男の末路を、その演技によってのみ(外見的には、わたしの知っているニクソンとはまるで似ていない!)表現するフランク・ランジェラを見るだけでも、この映画を観る価値はあるでしょう。

 悪の側でありながら任務をまっとうし、忠をつくすケビン・ベーコンも良かった。

 ペラペラ司会者のインタビューということで、メジャーなスポンサーがつかないのに、ニクソン側は法外なインタビュー料金を請求するため、デビッド・フロストはインタビューで真実を引き出す作戦を練りながら、同時に金策に走り回らなければならないのです。

 インタビューは全部で四回。

 始めのうちは、海千山千(語源は知ってますか?)の老練政治家に挑むドンキホーテといった体(てい)で、てんで歯が立たないフロストが、インタビュー最終日にしかけた舌罠……

 ウォーターゲートをリアルタイムで知らずとも、いや「なんかアメリカ大統領が不正を働いて史上初めて辞任しなければならなかった事件……かな」程度の知識さえあれば、充分楽しめる映画です。

 週末の夜にでも、ぜひおすすめします。

 ギリギリとした精神的緊張を味わいながら観終わると、達成感と同時になんだかモノ悲しくなってしまう不思議な映画なんですから。

THE SPIRIT(ザ・スピリット)を観ました。

 THE SPIRIT(ザ・スピリット)、原作がコミックの2008年度作品です。

 「シン・シティ」(好きです)、「300」のフランク・ミラーの映画です。

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 シン・シティ同様、大部分モノクロ+ところどころ深紅というスタイリッシュな映像がカッコイイ!

 一度死んで生き返った主人公が、本当は死んでいるのか生きているのかわからない、というカンジの予告も魅力的。

 THE SPIRITというからには、霊的なハナシなのだろうか?

 結構佳作だった「ウオッチメン」と似たダークでレトロなカンジだけど、これも面白いカモ。

 などと考えて、公開当時から観たいと思っていましたが、かなり短い時間で公開終了されてしまたので観に行くことができませんでした。

 だから、さきの週末、レンタルビデオの棚の端に、このタイトルを見かけた時は嬉しかった。

 早速、横にあった、N.ケイジの「ウイッカーマン」と同時に借りて帰ってみました。

 その感想ですが……

 確かに、映像は美しい。

 オープニング直後から、シルエットを多用し、柔らかくシャープな黒(としかいえない)を基調とする映像に文句なく引きつけられます。

 モノクロの映像でありながら、ネクタイだけが鮮やかな深紅というのも美麗です。

 公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/thespirit/main/index.html

 しかし、ストーリーが、大雑把すぎて、どうもいけません。

 やはり公開期間の長さは正直、というか、一般の方の観る目は確かです。レンタルビデオ店の棚の位置も正しい。

 わたしのみるところ、スピリットというハナシには、いくつか欠点があるのです。

 原作を知らないので断言はできませんが、アメリカのどこかの街(セントラル・シティ)を守る「街の守護者(ガーディアン)」というスピリットの立ち位置は、バットマンと80パーセント以上重なってしまいますし、一度殉職した警官が、墓場で生き返った後、どうして前の人生を捨て、スピリットとして生きていこうと決意するのかよくわかりません。

 同じ「生き返ったヒーロー」なら、スポーンの方が魅力がある。

 妻を守るために地獄から蘇ったのは良いけど、愛する妻はもう他の男と再婚していた(しかも親友と)のですから。

 しかも、顔は焼けただれて、マスクを被らずにはいられない……なんてね。

 とにかく、スピリットには、スポーンやバットマンのような苦悩や深みが足らない気がするのです。

 女と見ればまずクドく「歩く生殖器」、女たらし過ぎるのもビミョーにひっかかりますし。

 クドく?

 そう、この映画の欠点は、クドいことです。

 演出がクド過ぎる。

 敵であるオクトパス(シャミュエル・L・ジャクソン)の舞台演出的な身振りも気になります。

 スピリットとオクトパスの肉弾戦?も、スピリットが股間を殴られて目を白黒させてクドい。

 天才科学者であるオクトパスが、ペトリ皿で生み出して部下にしている、太っちょでおバカなクローンたち(全員同じ顔)のリアクションもくどい。クドすぎる。

 太っちょたちの名前(パトスやロゴスといった哲学的なもの)が、すべて彼らが着る黒のTシャツに印刷されているのも、面白さよりクドさを感じてしまいます。

 つまり、映画が、シリアス路線を目指すのかスラップスティック(ドタバタ)を目指すのかがよくわからない。

 中途半端なんですね。

 残酷で身勝手で、ムチャクチャなオクトパスの言動が、S.L.ジャクソンの個人的魅力で、かなり愛嬌に感じられるのは、さすがですが。

 ラストで明かされる、どうしてスピリットが不死身なのか、という種明かしも、「エ、そんなストレートな」という感じですし、オクトパスが探し求める宝が、「アルゴ探検隊が見つけたアレ」だったなんてのも、世界観と合ってないように思えるのですね。

 おまけに、最後に利用されるアイテムが、これも「神話のアレ」だったなんて、ちょっと違和感感じまくり、という感じがします。

 そんなのは、インディアナ・ジョーンズに任せておけば良いのです。

 何度も書きますが、映像は美しいのですがねぇ。

 結論をいいますと、「THE SPIRIT」、スタイリッシュな映像を見たいのなら、それほど尺も長くありませんし、ご覧になられても良いと思います。

ブッ飛ぶほどにパワフル! アドレナリン1・2「ハイ・ボルテージ」

 スカパー!TVガイドに掲載されている、川村ナヲコさんの「映画の楽しみ方」は、わたしが毎月楽しみにしている映画紹介のひとつです。

 一コマに、多くのイラストと気の利いた手書き文字を描き込んで、一つの作品の紹介をする。

 その切り口とセンスの良さは抜群で、わたしは、彼女の紹介する映画はだいたい観るようにしています。

 今月取り上げられたタイトルは「アドレナリン2 ハイ・ボルテージ」でした。

 これがまた、どうしても観たくなる素敵なイラストです。

 と、言葉で書いてもわからないだろうなぁ。

 この際、ゲンブツを載せておきましょう。(クリックしてください)

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 ご存じのように(わたしは知りませんでしたが)、主役のジェイソン・ステイサムといえば、リュック・ベッソンの「トランスポーター」シリーズのヒーローです。

 それが「アドレナリン」では、とんでもなくブッとんだ殺し屋を怪演、というには、スゴすぎるパワフルさで演じているのです。

 この映画については、、シリーズ1の頃から、レンタルビデオの棚に置かれているのは知っていました。

 しかし、なんだか危なそうなタイトルと、ハチャメチャそうな表紙で敬遠していたのです。

 確か、昼間は非常に実直でマジメで、寝る時間も惜しんで働く名外科医だが、夜は大変な量の麻薬を使わずにはいられない重度の麻薬患者。

 半裸の男が体をエビ反らせて叫んでいる表紙で、ともて借りる気には……

 エッ?あれ、それって「ドーパミン」じゃん。

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 まぎらわしい名前つけんなよって。

 これは、断言しますが、もうすぐ「エンドルフィン」や「エンザイム」、「ランゲルハンス島の反乱」なんて映画が絶対できますよ。

 「セサミン」とか……

 それとも、もう出来てるのか?

 さて、「アドレナリン」です。

 もちろん1と2の両方を連続で観ました。

 というか、1を観て「やられたぁ」と思った人なら、2を観ないわけにはいかない。

 ストーリーは単純、映画の冒頭で、中国製の毒を盛られた殺し屋、シェブ・チェリオスが、犯人と解毒薬を求めて街を走り回る。

 いたるところで暴力と性をふりまきながら。

 なんせ、アドレナリンを体内に放出させ続けないと毒が回って死ぬというのですから……

 突然、怒り、興奮し、欲情し、とにかくアドレナリンを出しまくる。

 そして、主人公、シェブ・チェリオスのトンデモない強さ!

 劇中で、カレのことをダイ・ハード・マンと呼ぶことがありますが、チェリオスは、正しく「死なねぇ男」です。

 飛び交う弾丸も、彼を避けて飛んでいく!

 本来なら、「大量の下卑たシモネタ」と「スプラッタ一歩手前の殺戮(さつりく)」で後味の悪い映画となるところを、主人公ジェイソンの魅力と監督・演出者のはちきれんばかりのパワーが、見事にそれをハチャメチャで楽しいノンストップ・パワフル・ムービーに昇華させています。

 うーん、これを、どう表現すれば良いのかなぁ。

 たとえば、日本やフランスが、このタイプの映画を作れば、岩井俊二の「スワロウテイル・円都(イェンタウン)」や「ドーベルマン」のように、妙に湿っぽかったり、後味の悪いピカレスク・スプラッタ映画になってしまうのですね。

 しかし、「アドレナリン1・2」には、もっとカラっとしたドライな笑いがある。

 主人公や悪役たちが、マジメであればあるほど、逆にトホホ的な面白さが醸し出されるのです――

 おもろうて、やがてかなしき うかいかな

 じゃなくて、

 おもろうて ときどきこわくて さいごはスッキリ

 という感じですかねぇ。

 昔の映画でいえば、J.P.ベルモントの「おかしなおかしな大冒険」とか、リノ・バンチュラの「女王陛下のダイナマイト」という感じでしょうか。

 どちらも、わたしの人生を変えてしまった、といって良い作品なのですが、それはさておき、それらに共通するのは、

「話のツジツマや通りの良さなんてドーでも良し、俺たちゃパワーで突っ切るゼ!」

といった、途轍(トテツ)もないエネルギーを内包していることですね。

 「アドレナリン2」では、彼の心臓の強さに惚れ込んだギャングの老ボスに心臓を奪われ、代わりに入れられた、すぐに電池切れとなる人工心臓にチャージしつつ、街を駆け回るチェリオスが描かれます。

 これもすごい。

 まあ、こんな感じです↓

 http://bd-dvd.sonypictures.jp/crankhighvoltage/

 でね、本当のところ、わたしは、この映画を観て、なんだかうらやましくなったのです。

 かつて、日本にも「独立愚連隊」や「兵隊やくざ」(ちょっと古い?)のような、パワフルな映画ができる素地があった。

 でも、最近の邦画は、妙に老成して「ゲージュツ」や「泣き」、そして「アイドル頼み」の作品ばかりになっているような気がするから。

 もっとも、こういったパワフルな映画を作るためには、エネルギーを感じさせる役者が不可欠ですが……

 今の日本には、見栄えの良いアイドルは沢山いますが、ちょっと老けてて、頭がハゲ気味のくせに、サイコーにパワフルでカッコえぇというような役者は、いないような気がします。

 あるいは、ゆとり教育からは「ガイバー」(規格外品)は生まれないという証明なのでしょうか?

 あ、あと、「アドレナリン」は、日本の配給会社がつけたタイトルです。

 原題は、「Crank」「Crank High Voltage」といいます。

Crankというと、昔の車を始動させるクランクとかクランク・エンジン、変人とか奇行しか思い浮かばないのですが(カクカク曲がったのが「クランク」だから「ツムジ曲がり!」)、調べてみると、俗的にはいろいろ意味があるようです。

 例えば、crank upで音量などを上げる、crank themで「あたる、怒りをぶつける」、英国では、俗に「ヤクをキメる(麻薬を打つ)」という意味など。

 内容からいうと「八つ当たり」なのかなぁ。

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