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世界はまるでディズニーランド ~魔法にかけられて~



 これは、ディズニー映画である。

 ディズニーのアニメーションだ。
 
 だが、ただのアニメーションではない。ちょっとした仕掛けがある。

 映画が始まりーー

 美しい森のなか、日が昇り、朝がきて、小さいけれど小ぎれいな家の窓が開き、歌いながらヒロインが顔をだす。

 鳥たちも歌いながら、ヒロインにまとわりつく。

 まるで映画「白雪姫」のようだ(主人公の名前はジゼル:白鳥の湖だけど)。

 そして、彼女は、森で運命の王子さま(たとえではなく、本物の王子)にであう。
 たちまち二人は恋に落ち、結婚を誓う。

 が、そこへ、おきまりの悪いお妃(きさき)があらわれ、城に来たヒロインを底なしの井戸へと突き落とすのだ。

 しかしヒロインは死ななかった。
 井戸は、異世界への入り口であったからだ。

 気がつくと、アニメのヒロインは、現実の女性となって、ニューヨークの街角に立っていた……

 というのが、映画「魔法にかけられて」だ。

公開されたのは、ちょっと前だが、どうしても言っておきたいことがあるので、時季外れは承知の上で書かせていただく。

 さて、現実の人間となったヒロイン(どことなく「ローマの休日」のオードリー・ヘプバーンに似ているのは作為的?33歳のエイミー・アダムスが好演)は、ニューヨークで数々のピンボケ失敗を繰り返す。

 そりゃあそうだ。平和な森の中しか知らない、世間知らずのお姫さまなのだ。
 ヘヴィなNYの生活に対応できるわけがない。

 やがて、彼女は、子持ちの男性と出会い、大人の恋に落ちる。

 そこへ、彼女を追って王子が現れ、さらに悪い妃(スーザン・サランドンが熱演)も登場し……

 と、まあ、あらすじだけ書くと、ありがちな話なのだが、実は、わたしがこの映画に感嘆(感動じゃないよ)したのは、そこではない。

 物語中盤、ヒロインは、おとぎの国から必ず助けに来るであろう、王子を探してニューヨークの街をさまよう。

 そして、彼女はセントラル・パークにやってきた。

 現実のパークでは、さまざまななストリート・パフォーマンスが行われている。(休日という設定だったかな)

 風船が空に放たれ、吹奏楽がなり響き、アクロバティックなダンスが披露され、そして人々は歌をうたい、笑う。

 それは、彼女が、おとぎの国の森で、動物たちと繰り広げていた、明るく楽しい歌とダンスにそっくりだ。

 だから、ヒロインも思わずパフォーマンスに加わって踊り出す。

 あ! ああ……これはどこかで見たことがあるぞ!!

 だが、いったい、どこだ? 何だ?

 明るい空の下、極彩色の色の渦、音楽、踊り、そして歌……

 そう、それは、ディズニー・ワールドで行われている、あのパレードそっくりなのだ。

 ああ、なんとう力業(ちからわざ)!!

 映画の中に、ディズニーの中で、もっともディズニーらしいパレードを再現するとは。

 つまり、アニメの、おとぎの国から出てきたヒロインが、現実の世界で、自分の故郷(おおとぎの国)に似たものを見つけた、それこそが、ディズニー・パレードであるということなのだ。

 この映画を観た人が、もし、もっとこの映画の余韻に浸(ひた)っていたい、いつまでも終わらない感動を感じていたい、と考えたなら方法は簡単、かれらはディズニー・ワールドへ行きさえすればよい。

 下世話な言い方をすれば、「魔法にかけられて」は、映画の体裁をとった、壮大なディズニー・ワールドのプロパガンダなのだ。

 しかし、不思議とあざとさは感じない。

 おそらく、名人芸で一本とられた、という爽快感があるからだろうなぁ。

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