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コイツがオマエと別れさせる ~離婚遺伝子~

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 少し前になるが、スウェーデンのカロリンスカ研究所が、オトコには「離婚遺伝子(Divorce Gene)」を持つものがいると発表した。

 わたしは、その記事をネットで見たが、被験者2000人!の遺伝子のうち、AVPR1Aと呼ばれる遺伝子の中で334型を持つ男は、妻に不満を持たれていることが多く、過去1年以内に家庭が破綻しかかった者は、334を持たない者の2倍近くあったらしい。

 とはいえ、人は(シツケや自己啓蒙などで)しっかりと自分を律しない限り、なんでも他人のせい(この場合は遺伝子のせいだが)にしたがるものだから、こんな記事を鵜呑みにはできない。

 「あの人と合わないのは、彼の離婚遺伝子のせいよ」
 「おれがひとりの女とうまくやっていけないのは離婚遺伝子のせいだ」

 そういっておけば、さぞ楽だろう……が

 だいたい怪しいじゃないの。そもそも、サンプルが2000人ってのが少なすぎる。
 そういった、心情がからむ実験の場合、男性の職業(収入)や女性との年齢差など、考えなければならないパラメータが多すぎて、とても単純比較できるものではない。
 これでは、学術的な実験とはいえない。

 と思ったら、実際の研究論文には「離婚遺伝子(Divorce Gene)」なる単語は一切出てこず、遺伝子によって離婚率が変わる、などという記述も一切なかったことを知った。
 ただ、ネズミを使った実験の結果を人間にも応用できるかもしれない、と示唆しただけだったようだ。

 ネズミが遺伝子によって、どのように雌雄不和になるのか、そして研究者はどうやってそれを見極めたのか興味がわくが、要するに、あの記事は、単に、誰もが感じる、かつてあれほど愛し合ったふたりの仲が冷え、いつしか憎みあうようになる男女間の、説明がつかない憤りを、この100年で世にあらわれ、最近、特にクローズアップされている「遺伝子」のせいにして話題づくりをしたい、というマスメディアの思惑だったようだ。

 確かに、恐怖をあまり感じない遺伝子というのは存在するようだが…。

 遺伝子はただの設計図だ。

 体は、それにしたがって組み立てられる。自動車と同じだ。

 もちろん、われわれの肉体は大きな影響をうけるだろう。

 そして、遺伝的に決まってしまった脳内麻薬物質、ホルモンの分泌の多寡(たか)によって、精神状態も大きく変わることがあるかもしれない。

 だが、それはあくまでも基本的な部分であって、器にいれる中身は、その後の学習によって大幅に変わるはずだ。

 また変わらねばおかしい。

 わたし自身は、そういった「遺伝子至上主義」的な傾向は危険だと思うし、間違っているとも思うが、まだ解明されていない部分が多いだけに、人々が遺伝子にいろいろな、そして原因不明な、われわれの行動原因を求めたがる気持ちもわかる。

 わからないことは、わからないもののせいにすると楽なのだ。

 しかし、結局は、この「ディボース・ジーン」、いつの間にか忘れ去られ、誰かがふと口にしたときに、あの「マギー・ミネンコ」同様、「あったあった、そんなの!」と大笑いされることになるのだろう。

 100年前、R.ドーソンが唱えたのが「利己的な遺伝子」セルフィッシュ・ジーンだった。
 50年前、映画界にあらわれた史上最高の「セックス・シンボル」はノーマ・ジーンだ。
 そしてさらに50年を経て、今、一時的にせよ「離婚遺伝子」ディボース・ジーンが登場したことに、わたしは歴史の暗黙の符合を……感じるわけないわな。

 それはさておき、遺伝子の話題について、わたしが好きなのは「ボトルネック現象」だ。

 動物の遺伝子は多様性を持っている。冷徹な自然の中にあって、多様性こそが生き残る秘訣だからだ。

 似てはいても、免疫、抵抗力、体重、身長など、さまざまな部分で違えば、ある病気が流行ったところで、気候が少々変わったところで、そのイキモノがすべて死に絶えることはない。

 多様性は、生き物が自分自身にかけた、いわば保険なのだ。

 しかし、現存する生き物の中には、遺伝子を調べると多様性が極端に少ない種が存在する。

 たとえばチーターだ。

 なぜ、遺伝子の多様性が少なくなったかというと、ある時期、絶滅寸前まで数が減ったために、ひとつの種族、集団だけが生き延びて、それが数を増やして現在のチーターになったからだと考えられている。

 つまり、何かが原因で、ポチ一家だけか生き残って、その一族が子孫を増やし、のちの犬全部になりました、って感じだな。

 このように、ある時期、その数が急激かつ極端に減少する現象(ややこしいね)をボトルネック現象と呼ぶ。

 チーター以外にボトルネック現象を体験したと考えられるのが、われわれ人類だ。

 他の大型霊長類(ゴリラなど)と比べても、人類の遺伝子の多様性は少ない。

 チンパンジーの小集団のミトコンドリア遺伝子の多様性の方が、人類全体のミトコンドリア遺伝子の多様性よりも大きいことがあるほどなのだ。

 つまり、人類も、かつて絶滅の危機に瀕したことがあって遺伝子に多様性が少なく、種として見れば、幅の狭い、弱い生き物だということだ。

 いったい何によって絶滅の危機に瀕したのか、SF的な想像力をかきたてられるが、それはともかく…

 ただでさえ、薄められた農薬やメラミンを体内に蓄積し続け、あるいは、それらを食べて毒物が生体濃縮された魚や貝、牛、豚を食べている人類だ。

 次に、大規模な疫病や気候の激変があれば、今度は危ないかもしれない。

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