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カメラを振り回すな! クローバーフィールド

週末から今週にかけて、まとめてビデオや映画を観ました。

 その感想を書きます。

 まずは、「クローバーフィールド」

 少し前の作品(9/5レンタル開始)ですが、観てしまったからには書いておかなければなりません。

 製作者のJ・J・エイブラムスの指示で「HAKAISHA」と副題がつけられたこの作品は、怪獣が「文化として定着して」いるニッポンのように、アメリカにも怪獣が必要だと考えた彼の「怪獣映画に対するオマージュ」感にあふれています。

 しかし、公開当時から、Youtubeを使ったPRや、引きちぎられた自由の女神の首を東京に持ってくるという、ちょっとあざとい手法が鼻について、いや、なにより手持ちのカムコーダ(つまりビデオカメラ)をドキュメンタリータッチに振り回して撮影しているという噂を聞いて映画館へ観に行く気にはなれませんでした。

 かつて巨大だったカメラが技術革新で驚異的に小さくなり、動かしながら躍動的(だと彼らは錯覚している)に撮影できるようになった。
 だから、パニックに陥ったり、襲撃を受けたりした時の臨場感を出すために、人の目線が揺れるようにカメラを振り回して撮るという手法を好む撮影監督および監督が増えています。

 しかし、それはホーム・ムービーでさえ、もっともやってはいけないことです。

 まして、多くの人が観る映画ではいうまでもありません。

 何が迷惑といって、友人宅を訪ねた際に、延々と上下左右に振り回しつつズームアップ・ダウンを繰り返す運動会ビデオを見せられることほど悪質なものはないのですから。

 わたしは、乗り物酔いなどには強い方なので気分が悪くなったりはしませんが、目が疲れてしまうのです。
 アンジェリーナジョリーの「ウオンテッド」は、DVDは借りたものの、はじめの5分で挫折してしまい、最後まで観ることはできませんでした。

 さて「クローバーフィールド」です。

 内容は、ひとことでいえば、怪獣によって平和な生活を破壊されるニューヨーカーの映画です。

 手法は、おそらくトム・クルーズの「宇宙戦争」からインスパイアされたであろう、民間人の目を通して見る怪獣襲来を「ブレア・ウイッチプロジェクト」で注目された個人所有のカムコーダを通じて長々と撮り続ける、というものです。

 個人の目線で見る怪獣襲来ですから、シャマラン監督の「サイン」のように、登場人物や観客にはロクな情報が与えられません。

 エヴァンゲリヲンに体型の似た(ファンには怒られそうですが)怪獣の姿すら、ビルの合間にちらちらと見える程度です。

 だから、よけいに不安感を煽られる。

 見始めて20分で、わたしは完全に取り込まれてしまいました。

 はじめの10分程度は退屈です。

 パーティー会場で、トーキョーに栄転する男(主人公)にわたすグッバイ・メッセージを、ちょっと抜けた男(友人)が撮り続けるだけで面白くも何ともない……のですが、後半、ここで示される人間関係が大きなウエイトを占めるようになってきます。

 さらに、このパーティーで交わされた言葉のために、怪獣出現で危険地帯となったマンハッタンを主人公は離れられなくなってしまうのです。

 ビデオ映像は、全編通じて、すでに記録されてあるビデオテープに上書きされているため、カメラが衝撃を受けたり、一旦停止するたびに、以前に撮られた平和で甘い恋人との映像が少ずつ映されるのもウマイ。

 あの時はこんなに平和だったのに、と思わせるのですね。

 あーあ、引き込まれてしまった。

 こうなってくると、カメラ振り回しも、臨場感を倍増させるためのテクニック以外のなにものでもなくなってきます。

 映像の冒頭で示される「事件目撃記録:かつてマンハッタンと呼ばれた土地で発見されたテープ:暗号名クローバーフィールド」という冷たい印象のインデックスも、物語の悲劇的結末を予感させます。

 そして、ラスト……

 ぜひ、多くの人に観てもらいたい作品ですが、上に書いたように、カメラが振り回されるために、酔いやすい体質の方には少しばかり酷かもしれません。

 製作者の日本の怪獣映画に対する愛着、リスペクトには並々ならぬものがあって、画面がフェードアウトしてから徐々に聞こえてくるテーマ局は、日本のSF映画音楽の雄、伊福部氏のゴジラそっくりです。ちょっと日本的すぎて、今までみていたニューヨークのハナシとは違和感すら感じるほどです。 

 あと、DVDでご覧になられたなら、ぜひ気をつけて見てください。
 ラスト数秒前、コニーアイランドで恋人と乗った観覧車から撮影される海景色の真ん中右側を。
 一度しか観ることのできない映画館では、まず気づかない、しかし重要なシーンが映って撮っていますから。

 続編は諸事情から頓挫(とんざ)しているようですが、一部に、主人公が行く(予定)のニッポンが舞台となるという噂が流れていました。

 外国人から観た(ちょっとピンボケ)ブラックレイン的ニッポン(「ニックサン!」)で展開する「クローバーフィールド」ワールドを、観てみたいような、そうでないようなフクザツな気分です。

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