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ついに解禁! 映画「第9地区」

 実は、つい先ほどまで、「torneで地上デジタルテレビ放送録画」という名目に偽装して、先日購入した中古PS3について書こうと考えていました。

 購入と同時に500ギガバイト2.5インチSATA-HDDバルク品も買って、一度もps3の電源を入れることなく換装し、その作業の、あまりのカンタンさに拍子抜けしたなぁモゥ、と続けたかったのですが……

 土曜日に、映画館に観に行こうと思いながら、つい時期を逸していた「シャーロック・ホームズの冒険」をレンタルし、それを返却しに寄ったビデオレンタル店で、あの「第九地区」が8月11日レンタル開始というチラシを目にして、急遽(きゅうきょ)そちらを書くことにしたのです。

 もと日本シャーロックホームズ協会会員としては、ロバート・ダウニーJrのSHと、ジュード・ロウのワトソンという異色の組み合わせの「コミック調ホームズ譚(たん)」については、是が非でも書かなくてはなりません。

 ――マイケル・ケイン+ベン・キングズレー主演 『迷探偵シャーロック ・ホームズ』の例を挙げるまでもなく、コミック調ホームズものにはほとんどハズレがない。逆に、変にマジメに作られたヤング・シャーロックのようなものは、ほとんどが駄作ですから――

ファイル 572-1.jpg

 が、今のわたしには、それより第9地区の方が優先順位が高い。

 もう公開も終わったことですので、思い切って(ちょっとだけレンタルDVDに遠慮しつつ)書くことにします。

以前にも書きましたが、「第9地区」は、南アフリカ:ヨハネスブルグを舞台に、南アフリカで撮られた映画です。

 映画の冒頭、南アフリカに住み着いている「不法移民」(英語でいえば、まさしくエイリアン)について、彼らをどう思うか?という質問を市民に投げかけ、返ってきた『生の住人の声』を、異星人(エイリアン)に対する声として使うという手法(ファイク・ドキュメント?)をとっています。

だから、映画冒頭の「彼ら(エイリアン)をどう思うか?」という質問に答える人々の表情と声音は、異常なほどリアルです。

 南アフリカといえば、今なら、まずワールドカップ(サッカー)が思い浮かぶと思いますが、 やはり、大きな影を落とすのは、その歴史に刻まれた汚点、人種隔離政策:アパルトヘイトでしょう。

 この映画を観た人の中には、「殊更(ことさら)その歴史と映画を結びつけない方が良い」といわれる方もおられますが、少なくとも、制作者たちが、この映画の舞台を南アフリカを舞台に持ってきた意味は何かあるはずです。

 さまざまな要素をもった映画ですが、思い切って、ひとことでまとめてしまえば、「第9地区」は「差別する側」が「される側」に突然変わる恐怖を描いた作品です。

 その経緯は……

 28年前のある日、突然、南アフリカヨハネスバーグ上空に、巨大な宇宙船が出現します。

 ID4(インディペンデンス・デイ)を彷彿(ほうふつ)させる巨大な宇宙船に軍が乗り込むと(案外簡単に中に入ることができる)、中には餓死寸前の宇宙人たちが………

 この時の映像がいい。

 銃をかまえつつ、船内に押し入る兵隊たち。

 なんらかの事故でパワーダウンしているのか、真っ暗で、よどんだ空気のなか、近づく兵士の前で、動くこともできず、ぐったりと倒れたままの宇宙人たち。

 まるで、漂着した難民船に飛び込んだ軍人の目に映る光景のようです。

 人類は、人道?的見地から、彼らを地上に降ろし、そこを第9地区として隔離します。

 救出されたエビ星人(見た目がエビにそっくりなので、そう呼ばれます)たちのほとんどは、思考力は低い(それが、持って生まれた資質なのか、教育によるものなのかは示されません)ながらも、平和的でおとなしい性質をしています。

 そうして、隔離された第9地区で、彼らは、船から持ち出した「遺伝子チェック機能付きで、彼らにしか扱えない武器類」を、大好物の猫缶(このセンスがいい!)と交換しながら暮らし始めるのです。

 地元のギャングのひとりは、遺伝子チェック機能があるため、使えないとわかりながらも、そういった武器をコレクションしています。

 やがて、増え過ぎたエビたちに、地域住民から苦情が寄せられ、国は、彼らを、町から離れた新しい場所に移動させることにします。

 国が責任を恐れたためか、これは儲かると踏んだ企業が食い込んだからか、ストーリー中で、エビたちの管理は民間企業(MNU:MULTI-NATIONAL UNITED:あれ、名前は超国家機関になってる)がおこなっています。

 この企業のボンクラ社員、「社長ご自慢の美しい娘」のムコが、本作主人公のヴィカスです。

 演じているシャルト・コプリーは、監督の友人で、演技経験はほとんどなかったそうですが、本作の人気で、次回出演作も決まっているそうです。

 本作の主人公ヴィカス、彼の悲哀は、世間的には見栄をはりつつも、かれ自身、自分が無能でボンクラであることを自覚している点です。

 だからこそ、巨大企業の社長令嬢で、美しいブロンドの女性が、自分を愛してくれたことが嬉しくて仕方がない。

 のちに大変な事件に巻き込まれるヴィカス氏ですが、常に彼の行動原理の根幹にあるのは妻への愛です。

「妻に会いたい」「妻をこの手で抱きしめたい(後述のように、この言葉にはその字面以上の意味があります)」それだけが彼の望みで、そのためだけに彼は行動する。

 いや、先走りしました。

 とにかくMNUの社長は娘を愛しています。

 だから、ボンクラなヴィカスを不満に思いながらも、娘が選んだ男だからしかたないと諦めている。

 諦めつつも、ボンクラな娘ムコにチャンスをやろうと、彼はヴィカスをエイリアン移動プロジェクトの責任者に抜擢し、エビ星人の地区代表者から、移転許可をもらうように命令します。

 大役を任されたと喜んで私兵を引き連れ、第9地区で、サインをもらってまわるヴィカス。

 もちろん、エビ星人とは、ほとんど会話は成り立たず(彼らの興味は、大好物の猫缶だけですから)、ただ、うるさそうに書類を払いのけられた際についた傷と汚れを「こいつはサインだよな」と呟いて、ブリーフケースにしまうことの繰り返しです。

 その合間には、差別者としてのヴィカスが顔をのぞかせる。

 地区をまわるうちに、エビ星人たちの孵化システムを見つけた彼は、その卵を「堕胎だよ」といいながら、破壊し焼き払うのです。

 彼にそれほど悪気はない。

 ただ、一般的なヒトとして、兵士(と後をつけまわすテレビカメラ)の手前、ちょっと強がってワルぶっているだけなのです。多くの差別者同様にね。

 やがて、彼自身が被差別者になるとも知らずに……

 そして、ヴィカスにとって、最悪の事件が起こってしまいます。

 事故は、無教養なエビ星人の中にあって、ただひとり理知的なクリストファー(これだって勝手に人間がつけた名前にすぎないけれど)を、ヴィカスが訪ねた時、彼が隠していた謎のカプセルを、偶然開けたことによって起こります。

 吹き出た黒い液体を顔に浴びたヴィカスは、しばらくして体に不調を感じ始めます。

 その液体こそ、エビ星人(しかも司令階級)クリストファー(以下クリスと呼称)が28年にわたって集め続けた指令艇を動かすためのエネルギーだったのです。

 同時にこの液体は、ヴィカスの遺伝子に作用し、彼の身体をエビ星人に変えていきます。

 まるで、ザ・フライのブランドルのように………

 自分では制御できない、変わりつつある肉体への恐怖。

 翌日、ヴィカスは、自分の手がエビ星人の手に変わっていることを知ります。

 すぐに会社に拘束されるヴィカス。

 そして、彼は地下実験室で、エビ星人に変化した手に、エイリアン兵器を握らされ、牛を豚を、そしてエビ星人を撃たされます。

 研究者たちは狂喜します。これまで、猫缶と交換に簡単に手に入れながら、動かすことができなかった兵器を扱える男があらわれたのですから。

 牛や豚までは、武器使用に協力していたヴィカスですが、エビ星人が標的として引き出されると猛烈に反抗を始めます。

 しかし、結局、銃を突きつけられ、無理やりエビ星人を撃たされる。

 その後、ヴィカスは、その武器をつかってラボ(研究室)を脱出します。

「この手では、僕の天使、最愛の妻を抱きしめることができない。昨日のあいつ、エビ星人なのに、赤いベストを着ていたクリスが持っていた液体が原因に違いない」

 そう考えたヴィカスは、単身、第9地区に向かいます。

 その彼を会社の私兵が追います。

 彼らにとってみれば、ヒトでありながら、エイリアンの武器を扱える彼は、貴重な研究材料なのですから。

 同様に、第9地区周辺に根を張るギャングたちにとっても、彼は得難い宝となります。

 ギャングのボスは叫びます。

「俺も、あいつのようになれば、今まで、かき集めたエイリアンの武器が使えるようになる。こいつを待っていたんだ」

 ヴィカスにとって、もっとも辛かったのは、会社が「ヴィカスは、エイリアンの女との性交渉で病気にかかった」というデマを流したことです。

 妻に会って、その誤解を解きたい!

 彼に、新たなモチベーションが発生します。

 第9地区で、クリスに会ったヴィカスは、彼が、地下に隠した司令艇をつかって、28年の間、空中に浮かび続ける母船に戻り、母星に帰還しようとしていることを知ります。

 エビに似た容貌ながら、冷静かつ落ち着いた人格?者のクリスは、ヴィカスに「手伝ってくれたら、君の身体を戻してあげる」と約束します。

 そこで、ふたりは、最初にヴィカスが持って帰ってしまった「黒い液体入りカプセル」を取り戻す為、エイリアン兵器で武装してラボに乗り込むのです。

 池部良と高倉健のように……

 ここからのSFアクションが楽しい。

 これまでの、地味さ、大人しさが嘘のように、スーパーアクションの連続です。

 アバターで大佐が乗っていたようなロボットまで出てくる。

 そして感動のラスト。

 差別する側からされる側にうつり、それでも妻を愛し続けた男は、最後に、妻への想いを越えて、自分の良心にしたがった行動をとります。

 彼の、自らを犠牲にして、MNUの攻撃を引き受けながら叫ぶ、

「オレの気が変わらないうちに行け!」

というセリフを聞いた時、

 神様の意思に沿った「黒人奴隷を持ち主の白人に戻す」という行為に背を向け、彼を自由にするという決断を下したハックルベリィ・フィンが自らに宣言する、

「よし、それなら僕は地獄に行こう」

というセリフを思い出してしまいました。

「第9地区」

 セル(ブルーレイとDVDセットで3980円、うーん)&レンタルは8月11日開始です。

 どうか、ご覧になってください。

 個人的には、今年一番の収穫の映画でした。

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