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カッコイイとはこういうことさ (その一)

「格好いいとはこうことさ」というセリフを流行らせたのは、宮崎駿の「紅の豚」だった。
 だが、わたしは、あの映画を、どうにも「カッコイイ」と思えなくて困ったものだった。
 ただの、ブタ太りのヒゲ親父が、らしくないキザな台詞を連発するだけの映画、わたしにはそう思えた。

 じゃあ、カッコいいのは、どういうこと?

 そうだなぁ。例えば、わたしにとっては、こんなのがカッコいいな。

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 俺が、アルバリア星系にある、唯一のMクラスのこの星にやってきて二週間が経つ。
 到着するなり小編成に分けられ、俺たちは惑星各地にバラまかれた。
 俺たちのリーダーは、ジャックという、士官学校を出たての銃も満足に撃てない若造で、俺の顔色ばかり見てやがる。

 まあ、ヤツが怖がるのも無理はない。

 地球にいる頃、俺は、ネオ・ニューヨークの血の気の多いギャングの中でも、一目置かれるブロンクスのぺドロザ一家の幹部だった。
 赤貧の中から成り上がった叩き上げのヤクザだ。怖いものなど何もなかった。
 会合の時も、よその親分連中は、陽子シールド発生装置を持たせた用心棒を立体格子状に配置してクルマを乗り降りしていたが、俺はなんの防御もしなかった。人間、死ぬ時は死ぬのだ。

 俺たちが、今、闘っているのは、クモに似た低脳異星人どもだ。
 ただの、デカいムシケラに過ぎない奴らが、5年前から地球に向かって攻撃をかけてきやがったので、この地球から3光年離れた場所が最前線となったのだ。
 最前線だぜ。危ない戦場だ。
 俺も、ヤクザを10人殺ったついでに殺した一般人3人の特赦を餌に、この激戦地に送り込まれてきたってわけだ。
 だが、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。生きて帰って、またブロンクスでブイブイ言わせなきゃならんからな。今までもそうだった。どんなところからでも生きて帰ったんだ
 だが、自分で言うのもなんだが、さすがに最前線のこんな星に送られてくるのは、死んだって構わない奴らばかりだ。
 俺の行動部隊は、ファイブマンセル。五人でひとつの機能をもつユニットだが、使えるヤツはほとんどいない。
 リーダーは、さっき言った若造で、こいつは使い物にはならない。いつも亜空間ネットに端末をつないで、どうやって生き延びるかばかり検索してやがるオタク野郎だ。
 二人目は、体重が150キロはあろうかという、白ブタ野郎だ。アゴが首に埋まって、首も回りゃしねぇ。おそらくロシアの方から送られてきたトロい農夫だろう。翻訳機を使わないと話も満足にできないんだ。
 三人目は、ドイツ系らしい、オハジキのように青い目をした小男だ。
 少し話をしただけだが、理屈っぽいことばかり言いやがって、数字ばかり並べやがるから、ほんの冗談で、軽く口に拳を当ててやったら前歯がぶっ飛んで、それからは静かになりやがった。今、気がついたが、こいつはスイス人かもしれねぇ。
 ネオ・スイスの銀行へは、地球の金持ちの金のほとんどが集まっているんだ。人口の8割が銀行員で、数字に強いのは当たり前だ。あいつは、金を使い込んだのかも知れない。 こんど暇な時に少し脅してみよう。
 最後のひとりは、これもチビの日本人だ。
 といっても、20年前に日本は沈んじまったから、もうそんな国はないんだが、やつは自分のことを日本人だと思っているらしい。こいつのことは良く知らない。目の吊り上がった東洋人など、俺のしったこっちゃない。

「ちょっと集まってくれ」
 ハンド・メッセージボード(携帯端末)を見ていたジャックが皆を集めた。
「コックロニド(そうそう、そんな名前だった)たちの主力部隊がスタニスラフ平原に集結している」
「おあつらえ向きじゃねえか」
 俺は肩をゆすった。スタニスラフ平原は、奴らのスペース・ポートへ通じるほそい谷間の手前にある広大な平原だ。奴らは、そこに集まってから、鉄壁防備のスペースポートに流れ込み、地球へ向かうのだ。
 今まで、俺たちも何度か岩陰にかくれて、奴らをねらい打ちするミッションをこなしてきた。
「今回は、通常のミッションではないんだ」
 俺はジャックの顔をみた。声が震えていやがったからだ。
「この星は、どうやら奴らの揺籃星だったらしい。だから星内部から、奴らが際限なく湧き出てきているようだ」
「ようらんってなんだ?」
「ゆりかごってことですよ。つまり、奴らは、この星に卵を産み、幼児期をここで過ごすんです。そして大きくなってから地上に出てくる」
 スイス野郎が、珍しく真っ青な目に感情を見せていった。
「黙らないと、また歯が減るぜ」
 俺はスイス野郎を黙らせると、ジャックをにらみつけた。
「際限なくって、何匹いやがるんだ」
「50億以上」
「なんだと」
 俺の体が総毛だった。初めて感じる感情だ。言い忘れていたが、奴らは巨大で、これ以上醜くはないという姿をしてやがるんだ。それが50億。想像を超えている。
「軍は、俺たちにどうしろっていうんだ」
「谷間に陣取って、5時間だけ奴らを食い止めろ、ということだ」
「とんでもない!」
 俺は、他の四人を見回した。
「俺はいかないぜ」
「ゴ時間クイとめる、どうなる」
 白ブタ農夫が、甲高い声でたずねた。
 俺は少しおどろいた。こいつとは、翻訳機を通じてしか話をしたことがなかったので地声を知らなかったのだ。
「五時間後にリフト・レスキュー機が我々を救いに来てくれる」
「……」
「わかった。正直に言おう。軍は、俺たちが奴らを食い止めている間に、スペースポートに反陽子爆弾を打ち込んで、星ごと奴らを消すつもりだ」
「そんなことを、なぜ知っている。奴らが下っぱのお前にそんなことを教えるとは思えねぇ」
「君は、勘違いしているようだったが、俺は、士官学校を出て、ここにいるんじゃない。以前の俺はバーチャル・ネットの住人だったのさ」
「クラッカーか」
「そういう言い方もあるな」
 それでわかった。おそらく、こいつは、ネット上の政府の重要部門に入り込んで捕まったクラッカーだったのだ。そして、ここに送られてきた。
「さっき、軍のネットに潜って、その情報をつかんできた」
「俺は逃げる」
 先に俺はいった。
「五時間、どこかに隠れているぜ。救助船が来るのも怪しいが、戦ったら絶対に助からねぇからな」
「その計画は、有効なんですか?」
 スイス人が尋ねた。
「俺たちの命はともかく、50億の奴らを、この経由地で叩けば戦局は決まるだろうな」
 俺は驚いてジャック見た。こいつらは何をいってやがるんだ。
 農夫が、おどおどと口を開いた。
「わたーし、怖いケド、残ります。ここデ引き留めたら、チキュウのわたしの奥さん、コドモ助かります」
 俺は、白ブタを睨みつけた。きっとすごい形相だったのだろう。
 口を開けようとした、その機先を制して声がした。
「わたしも残りますよ。地球には、日本が沈没してから、優しくわたしたち家族を受け入れてくれた人たちがいますから」
 日本人が、驚くほど流暢に英語を操っていった。

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 あー長すぎる、しまった。わたしは自分の能力を忘れていた。
 わたしには、ブログ一回分で、カッコイイ話なんかかけなかったのだ。
 もう、格好良くなるまえに、おわっちまおうかな。

 えー皆さん、こういうのがカッコ悪いことですので、これの反対がカッコイイと考えていただければ、と……あー座布団投げないで、九州場所では禁止ですよ。

 そうだ、既存のカッコイイ話をつかおう。

「グロリア」

 本当に、カッコイイとはこういうことだ、というのは、ジーナ・ローランズ演じるグロリアにトドメをさすだろう。

 もう、言い古されているから、今更わたしが付け加えることなど何もない。検索エンジンで、「グロリア ジーナ・ローランズ」をキィワードに検索すれば、いくらでもヒットするだろう。
 グロリアだけじゃ駄目だよ。最近リメイクされた、シャロン・ストーンのやつもあるからね。

 ああ、どっちつかず。グロリアについては、以下次号。

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