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カッコイイとはこういうことさ (その二)

 やっぱり気持ちが悪いから、不完全版ながらさっきの話の続きを書きます。

 急いだので、誤字脱字があるかもしれませんがご容赦を。

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 俺は呆れてものがいえなかった。
 このユニットはバカばっかりだ。
 理屈で考えたら、こんな任務は投げだすのが当たり前だ。
「いくら軍といったって、俺たちに、ただ死ねとは命令できねぇだろう」
 俺は、理屈の塊、といった顔で、黙り込んでいるスイス野郎に向かって同意を求めた。 こいつなら分かるはずだ。
「いえ、わたしもやります」
 俺は耳を疑った。
「お前、何をいってやがる。リクツで考えたらわかるだろう。お前の好きな論理だよ」
「論理で考えると、数人の犠牲で星が救えるなら、そちらをとるべきでしょうね」
「お前、死にたいのか?」
「死にたくはありません。わたしにも、結婚したばかりの妻と母親が故郷にいますからね。でも、だから、ここで食い止めないと」
「勝手にしろ、バカどもが」
 俺は、チタン・トーチカの隅に転がっているナパーム・ブラスト砲を取り上げると、出て行こうとした。
「あーすみません。ブラスト砲は置いていってもらわないと。弾もね」
 スイス野郎が、あっさりと言う。
「なんだと。アタマのネジがとんじまったか?」
 俺は鼻でわらった。相手は50億の巨大ゴキブリグモの大群だ。手ぶらで放り出されたら、どこに逃げても致命的じゃねえか。
「それは、あなたの勝手ですよ。でも、軍の備品は軍事行動に使うのが正しいのです」
「うるせぇ。お前らは勝手に死んでろ」
 その時、トーチカの入り口に巨大な影が立ちはだかった。
 白デブオヤジだ。
「どけ、怪我しねぇうちにな」
「ダーめです。ブき、置いていきなサイ」
「うるせぇ」 
 俺は、オヤジに飛びついた。
 体重があるだけに、ロシア野郎は案外よく闘った。
 俺は、振り回され、アーミー・ベストを引きちぎられながらも、何とかデブの首を地面に押しつけることに成功した。
「よし、そこまでだ」
 声と共に、カチャリと、冷たい銃のコッキングの音が響いた。
 見上げると、ジャックが俺に銃を向けている。
「おまえ……」
「俺たちは、あんたを引き留めようというんじゃない。あんたは、逃げるなり、救助を待つなり好きなようにしたらいいのさ。俺たちは、ただ闘うと言っているだけだ」
 俺は、腹の中でニヤリと笑った。
 こんな状況は、ブロンクスでも何度かあった。それを切り抜けて俺は今、生きてるんだ。

「わかったよ。俺が間違っていた。一緒に闘おう」

 ここからは、チョイ詳しメの梗概(あらすじ)で書きましょう。

 作戦トーチカから、谷間近くの迎撃トーチカに移動して戦闘が始まると、それは主人公の想像以上の激しさとなった。

 途中で、ブラスト砲を抱えて逃げだそうと考えていた彼も、生き延びるために必死で闘わざるを得なくなる。

 しばらくして、彼は致命的な失敗をしたことに気づいた。
 トーチカにナパームブラスト弾を落としてきたことに気づいたのだ。

「おい、おまえ、あと何発ブラスト弾をもってる」
 彼は、塹壕の中で忙しく動き回っているスイス人に声をかけた。
「三発ですね」
 即座に彼が答える。
「俺はあと一発だ。さっきの殴り合いで落としちまった」
 この後、スイス人とロシア人の間で、どちらが弾を取りに行くかで、言い争いになる。
「待ってください、あの人はどこですか?」
 突然、スイス人が大声を上げる。
 気がつくと日本人の姿が消えていた。
「彼は、さっき、こっそりと出て行ったよ」
 ジャックがいった。
「あの日本人、逃げやがったな」
 唸る主人公。
「お前、どうしてとめなかったんだ。あんなチビでも、銃を持てば戦力なんだぜ」
「いいかげんにアタマを働かせたらどうだ」
「なに?」
「彼が、どこに逃げる?」
「まさか、あいつ……」

 やがて、ドアを開け、日本人が倒れ込んでくる。
「ここに、ブラスト弾があります。と、取ってきました。だから、喧嘩をしないで……協力して……」

 そういって彼は気絶する。

 彼は片手と片足を失っていた。

「今で、三時間経ちました。予備の弾があればあと二時間、なんとかなるでしょう」
 そういいながら、気絶した日本人にスイス人が手早く止血処理をした。

 だが、戦局は、どんどん厳しくなってくる。

 今や、チタン・トーチカの周りはコックロニドだらけで、彼らが体当たりするたびに、重さ20トンのトーチカは小舟のように揺れ動く。

 作戦開始から、4時間50分たった。

 救助機が来るまで、あと10分だ。

 だが、それまでに、ジャックが壁を突き破ってきた角に刺されて死んでいた。

 ここから、ちょっと小説モード。

「ココ、マモらないト、ダメ。あーなた、ハやく、ここ去る」

 ロシア人は、まっすぐに俺を見つめていった。
 恐怖で、瞳孔が小さくなってやがる。
 唇の端からは涎までたらすビビリようだ。
「何をいってやがる、バカ」
「ハヤく、アナた、彼を連レテいく。ハヤク!」
 ヤツは、日本人を指さしていった。
 考えられないことに、俺は、ウスノロの白ブタ野郎に圧倒されていた。
 俺だって荒っぽい育ちだ。命知らずは何人もみた。
 だが、やつらをここに連れてきたら、全員が腰を抜かして、アタマを抱えるだろう。
 恐怖のあまり、おかしくなってしまうかも知れない。
 だが、この男は、恐怖で目が引きつり、よだれを垂らしながらでも、ここを守ろうとしている。

 俺は、何か言おうとした。
 今まで、感じたことのない感情が、俺を満たしはじめていた。
 だが、俺の気持ちは、言葉にならなかった。
 俺は、だまってロシア人を見つめた。
「アレクセイ・ユルゲイノフ」
 それが名前だと気がついて、俺も言った。
「俺はホワイト、ホワイト・ワシントン」
 ロシア人は頷く。

 俺は、日本人を担いだ。

 扉の前で、スイス人が俺を遮(さえぎ)った。
「合図で、扉を開けてください。わたしが先に出て、道を切り開きます」
「同時にでて、ブラストを打ちまくって血路を開いた方がいいぜ」
「それでは、怪我人を担いだあなたが、うまく逃げられない」
「だが……」
「いいから、はやく。あと5分しかないんです」
 また、俺の心がうずき始めた。
 だが、それは痛いんじゃない。なぜかしら、気持ちの良い、暖かい痛みだ。
「コリン、それがわたしの名前です。名字は発音が難しいから、コリンでいい」
「コリン……」
「ホワイト。さあ、開けてください」

 扉を開けると、コリンが飛び出していった。
 凄まじい音とコックロニドの悲鳴が交錯する。

 音は徐々に遠くなり、最後に、恐ろしい爆音と地鳴りがしてトーチカの外は静かになった。

 日本人を担いだまま、俺はドアを開けた。

 回収場所まで、まっすぐに道が出来ていた。

 道の終わりに、巨大なクレーターが出来ている。

 いま、起こったことは明らかだ。

 コリンは、ブラストを打ちまくって突っ走り、最後に、アニヒ爆弾を使って自爆し、コックロニドを掃討したのだ。

 俺は、もう一度、アレクセイを振り返った。
「サ、イって、ホワイト、ハヤく!」

 俺は、最後に、何か言おうとした。
 だが、言葉は出てこなかった。
 俺は、今まで自分はアタマが良いと考えていた。
 だが、実際は、なんてデキの悪いアタマだ。
 俺は唸り……なんとか言葉をひねり出そうとして、最後にひと言だけが、喉を通り抜けた。

「あばよ。アレクセイ」

 扉を開け、走り出ると、俺は叫びながら異星人の死体の上を突進した。

 胸の中に溜まった熱いかたまりが、俺の喉を通り、叫びとなってほとばしっていた。

 顔に生ぬるさを感じて手をやると、濡れていた。
 信じられないことに、俺は泣いてたのだ。

 ガキの頃、母親の指図で、変態ジジィの相手をさせられて以来、泣いたことなど無かった俺が……

 コリンが作ったクレーターにたどり着くと、俺は、座標を確認した。
 誤差無し。ぴったり合流地点だ。

 さすがコリンの作ったクレーターだけのことはある。

 俺は日本人をおろし、ブラストを構えて救助船を待った。
 1分、2分、予定の時刻を過ぎても、船はこなかった。
 クレーターの縁で蠢(うごめ)く影が見えた。コックロニドが近づいているらしい。
 さらに2分が経つ。
 もうダメかと諦めた時、漆黒の空に、フラッシュライトが光るのが見えた。
 だが、船は旋回をするだけで、こちらには気づかない。
 俺は、ビーコンを探ったが、コンバットベストは、アレクセイとのもみ合いで無くなっていた。日本人は、手当の時にベストを脱がされている。
 諦めかけた時、1キロ先のトーチカが、凄まじい閃光を放って消滅した。
「やったな、アレクセイ」
 おそらく、トーチカを攻め落とされたアレクセイが、コックロニドを道連れに自爆したのだろう。
 閃光は、クレーターの真ん中に立つ、俺の影を長く浮かびあがらせた。
 救助船のボンクラどもも、それに気づいたようだ。
 ゆっくりと降下してくる。
 俺の胸の高さでホバリングした船は、スライドドアを開けた。
 俺は、差し出された手を払って、日本人をそっと抱き上げると、船に押し込んで、叫んだ。
「足と手を失っている。そっと扱ってくれよ。友達なんだ」
 救命員は、耳に手を当てて聞き返す。
 俺は、いいんだ、と、手を振って、船のサイドバーにつかまった。
「行ってくれ」
 船は上昇を開始した。

 いきなりのショックを足に感じた。
 いつのまにか、コックロニドの群れが近づいていたのだ。
 凄まじい力で下に引かれると、俺の体は地面に落ちていった。
「いいんだ、行ってくれ」
 落下しながら、俺は、何か叫ぶ救助員に向かって言った。
「せめて、アイツだけでも助けないと、俺たちのやったことが無駄になるからな。なぁジャック、コリン、アレクセイ……」
 急速に小さくなる船を、コックロニドの間から見ていた俺は、やがて、世界が純白に輝くのを感じた。なんだか、とてもいい気分だった。

「ついてる野郎だ……」
 救助員が、床に倒れている日本人を見下ろしていった。
「この作戦で、助かったのは、こいつを含めて10名以下だろう」
 パイロットが振り返って言う。
「まあ、死んでもともとの犯罪者だからな、コイツらは」
「だが、あの大男の黒人は、いったい何を言っていたんだ」
「さあ、コイツを頼む、と言っていたような気がするが……」
「まさかな」
「国なしの日本人を、まして犯罪者の日本人を誰が助けたがるっていうんだ」

 パイロットが、そう言った瞬間、星全体が銀色の光に包まれた。

「まあ、結果的に、安い代償でこの戦争に勝つことができたな」
「地球のゴミ掃除ができて、同時に戦争に勝つとは、うまいやり方だったな」
「本当に、うまいやりかただった」

 こうして、アルバリア星系からMクラスの惑星がひとつ消滅したのだった。

             <了>

 あ、カッコイイ話じゃなくて、嫌な話になってしまったかも。

 蛇足ながら書いておくと、どうやら、わたしは勝てない戦いで、逃げても良い状況下、弱い人間が見せる一瞬の勇気、というやつと、頑なな心が溶けてその下から純な気持ちを見せる一徹モノの話が好きなんでしょう。

 おはずかしい。

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