先日書いた「ガンは遺伝病?」に少し付け加えておきます。
前回書いたように、ガンは基本的に遺伝はしません。
しかし、他のすべての事象同様、生命活動にも「例外の無いルールは無い」という格言があてはまります。
5%程度、ガンになりやすい家系というものが存在するのです。
そういった、家系による特異なガンを「家族性腫瘍」と呼びます。
前回書いたように、ガンはDNAのコピーミスによって遺伝子が傷つくことで発生します。
ガンに関連した遺伝子に「ガン抑制遺伝子」というものがありますが、これは、その名の通り細胞がガン化するのを防ぐ働きをもつ遺伝子です。
ご存じのように、ヒトは両親から半分ずつDNAを受け継ぐので、原理的にガン抑制遺伝子を二つもっていることになります。
どちらかひとつでも、ガン抑制遺伝子が機能していればガンにはなりません。
しかし、細胞分裂の際にコピーミスされ、ガン抑制遺伝子が二つとも傷つくとガンが発生しやすくなります。
通常だと、ガン抑制遺伝子が二つとも傷つくまでには長い年月がかかるため、おもにガンは高齢者の病気です。
しかし、家族性腫瘍の患者の遺伝子を調べると、片方のガン抑制遺伝子に生まれつき突然変異があることが分かりました。
この突然変異は全ての細胞にあるため、残る一つのガン抑制遺伝子が傷つくと、ガン抑制遺伝子が二つとも働かなくなってガンが発生します。
もともと二つあるガン予防の武器の一つが、あらかじめ使用不能であるために、ガンになりやすいということです。
そのために、家族性腫瘍の場合、若いうちにガンができ、多くの臓器にガンが発症する傾向があります。
変異したガン抑制遺伝子は、親から子へと受け継がれます。
父母どちらかに突然変異がある場合、次の世代に受け継がれる可能性は50%なので、子供が二人だと、どちらか一方が変異したガン抑制遺伝子を持って生まれる可能性があります。
ただし、変異したガン抑制遺伝子を持っていてもガンにならないこともある上、ガン抑制遺伝子が二つとも正常でもガンが発生することがあるので、家系の特定は困難かつ無意味でもあります。
こうした家族性腫瘍は、大腸ガン、乳ガン、卵巣ガンなどに見られます。
以上述べたように、ガン発生には遺伝的な要素が絡むことはありますが、その場合は若い時期から多くの臓器に発生するのが特徴です。
ですから、祖父母がガンで、両親がガンであっても、それらのガンが、彼らの若い時期にしかも様々な場所に多発したものでなければ家族性腫瘍ではないと考えられます。
要するに、よくいわれるように遺伝的に「母親が乳ガンであれば娘も乳ガンになりやすい」などということはほとんど無いということです。
やはりガンは生活習慣病なのです。
(参考:東京大付属病院准教授 中川恵一氏)