かつて、わたしの友人は、辞書を買うにあたって、それに「ちんちんかもかも」が納められているか否かを基準にしていました。
意味は皆さん、ご自分であたってみてください。
最近の辞書なら、たいていは入っているはずです。
その友人によると、世の多くの人は漢字を「百姓読み」しているそうで……
「え、ヒャクショーヨミってなに?だいたい意味はわかるけどさ、勝手につくるなよ、そんな読み方」
というと、
「何をいうか、辞書にちゃんと載っている。俺はだな、お前たちが、イヤラシイ単語を辞書でひいている時に、マジメに勉強していたのだ」
「む、ぐぐぅ……(ちがわい、と、きっぱりいい返せないのが悲しい!)」
確かに、辞書には「百姓よみ」という言葉があります。
その意味は、
「漢字を旁(つくり)や偏(へん)の音から勝手に類推して我流に読むこと」
どなたに関わらず、やってしまいがちな行為ゆえ、胸に手を当てて自戒したいものです。
爾来(じらい)、わたしは、辞書に親しみ、なるべく語彙を増やす努力をしてきました。
おかげで、辞書に記載されている言葉、されていない言葉についても、知識が深まり……んがぁ、先日、かなり驚くことがありました。
知人の女性、この方は妙齢のご婦人で、いろいろと教えていただくことも多いのですが、彼女が、
「辞書に『肉球』という言葉が載っていないことはご存じですか?」
といいだしたのです。
「まさか、そんな。1000万人に認知されているような言葉が載ってないわけないじゃないですか!」
咄嗟(とっさ)に、そういいかえしたものの、調べてみると、ネット辞書以外、ほぼ、どの辞書にも載っていませんでした(最新の電子辞書なんかには載っているかもしれません)。
長らくわたしは、真逆(マギャク)は、多くの新語同様、お笑い芸人が、オフザケで用いはじめた言葉で「自虐(ジギャク)語」に分類される言葉だよな、真逆は、本来「まさか」の当て字なのに、知らずにつかうのは恥ずかしいことだよ……と時代のフインキ(うそ!)を笑っていたのですが――真逆、うちのケツコについている、あの「ぷにぷに」が辞書に載っていないなんて……
知っているつもりでいるほど、何も知らないものなのですヨ。
ちなみに、日本の辞書にない肉球という言葉は、英語でPADといいます。
こっちは辞書に載っている。
「パッド」より「パフ」の方が近い感じがしますが。
老婆心ながら、「ちんちんかもかも」の意味は、
「男女の仲がたいへん睦(むつ)まじいこと」
です。
うーん、なんか語源がわかるような、わかりたくないような……
p.s.
考えてみれば、肉球は「にくキュウ」、つまり前半訓読み後半音読みの「湯桶(ゆトウ)読み」、すなわち原則的には文法的誤りの読み方なんですね。
そもそも、その読みの段階から不備のあるコトバなんですよ。
「湯桶読み」は、大陸からやってきたコトバではなく、「日本で作られた」和漢混種のコトバなので、読み方が訓音になるのもムベなるかな、ですが。
ちなみに、湯桶読みの逆の「重箱(ジュウばこ)読み」も原則としては誤りです。
p.p.s
もひとつちなみに、ドイツ語では、肉球を Ballen(バレン)と呼びます。
あっ、いま思いつきましたが、バレンって、あの木版画の時につかったアレのことかも。
一般的には、アヤメ科のバレン草からきているともいわれるようですが、ご存じのように、アレって竹の皮でできてるから、どうもそれはマユツバっぽいし、ひょっとしたら……