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突然やってくるガド 〜ガドガード〜

 ガドの形状は一辺二インチほどの立方体である。
 ガドは宇宙より飛来する。
 ガドは人の思考によって発動し、実体を持つ。
 その際、引き金となる思考から多大な影響を受け、性質、形状が決定される。

 だが、ガドは、人の矛盾するふたつの想いを理解しない。
 善、悪、弱、強、人間はひと言で簡単に説明できるほど単純ではない。
 一見、気が弱い好人物の男が、夜の街で少女を買う。
 人を殺すことなど何とも思わないギャングが、孤児院に寄付をする。
 それゆえ、時としてガドは、性質の全くことなる鉄鋼人を二体生み出すことがある。

 少年期から青年期に移行する、ほんの一瞬の時期にガドは現れた。
 少年や少女が、自分の進む道に不安を覚え、頼るものを欲した時にガドに出会うと、ガドは巨大なロボット、鉄鋼人になる。
 彼らの「ガード」が欲しいという願いに、ガドという未知の物質が応えるのだ。

 では、強い保護者、ガーディアンを欲さずに、自身が強くなりたいと願ったら?
 ガドは念者の体に融合し、亜鉄鋼という化け物に変えてしまう。

 主人公、真田ハジキは、夢を見ない少年である。
 父を宇宙旅行への挑戦という無謀な冒険の結果の 事故で亡くし、一日中働く母の背を見ながら育った彼の願いは、以前、家族で住んだ家を買い戻すことである。
 夢を捨て、母と妹のために働く少年の心は冷めている。
 日々、運送会社のアルバイトに勤しみ、お気に入りのスタジアム・ジャンパーに包まれた背を丸めてスクーターを押す彼の後ろ姿は、甘い夢を拒絶する険しさにあふれている。

 父の死と、その結果による貧困という重い現実が、彼から少年らしい夢を奪い去ったのだ。

 その時、彼はガドガードを手に入れた。
 身長十メートルの自分のためだけに動く鋼鉄の巨人。
 彼は、その鉄鋼人に、宇宙を目指した父が乗り込み、そのまま爆死したロケットの名、「ライトニング」と命名する。

 だが、実を言うと、同時期、彼は、もうひとつ大切なものを手に入れていた。
 それは家族以外の愛する対象だった。

 篠塚アラシ。
 彼女は格闘家である父から、男の子であれかし、と付けられた名を嫌って家を出、ハジキの住むナイトタウンに移ってきた。
 経済的にも精神的にも独り立ちできない自分を恥じた彼女は、現実に働き、精神的にも自立しているかのように見えるハジキと出会い、彼を尊敬し、気にかけるようになる。

 しばらくして、ハジキを目標とする彼女は、看板会社で働き始めた。
 偶然、鉄鋼人も手に入れる。
 彼女がハジキに寄せる好意は、確かに恋なのだが、この段階で、彼女はそれに気づいていない。

 ハジキは、当然のように彼女を拒絶する。
 自分に好意を寄せる女性を、単に性の対象として見るには彼は潔癖すぎ、そういった気持ちを受け止めるほど精神に余裕がないからだ。

 だが、物語後半、ある事件から家族と街を捨てたハジキを、彼女が追いかけはじめた頃から二人の気持ちは寄り添い始める。

 病むにやまれぬ事情から国境破りをした二人だったが、雨に濡れたアラシが発熱してしまい、その後一週間、少年はユニット辺境の果樹園で働きながら少女を看病したのだ。
 この時、ハジキが彼女に感じていたのは、愛する妹と同様、保護者としての愛情であったろう。
 だが、少女は、はっきりと少年に対する愛情を自覚する。

 少年が、少女への好意を自覚したのは、父の噂を追って滞在した港町で知り合ったガラス職人の少女が、目の前で光となって消えてしまった時だった。
 少女は三ヶ月前に交通事故で死んでいた。
 彼女が、死ぬ直前に残した想いにガドが反応し、亜鉄鋼として蘇っていたのだ。
 消え去る瞬間、少女は、大切なものは離してはいけない、とハジキに語りかける。

 丘の上から街を見下ろし、少女について話をするうち、少年は、ふと言葉を失う。
 少女のまっすぐな視線に息をのんだのだ。

 やがて、いつもポケットに両手を入れたまま話をしていた彼は、ポケットから手を出し、まっすぐに少女を見て、一緒に来て欲しい、とはっきり口にする。

 少年は、自分を守ってくれる巨人、ガドガードと、守るべき少女のふたつを同時に手に入れたのだ。

 ガドを手にいれたもう一人の少年、カタナ。
 初登場した時、彼はすでに暗黒街で、違法鉄重機(レイバーみたいなものか)を使ういっぱしのワルであった。
 その後、彼はハジキと出会い、彼のライトニングと戦って敗北する。
 俺もあのようなロボットが欲しい、そう願う彼の前にガドが現れ、発現したロボットに零と名付ける。
 その後、何度もハジキとカタナは、戦うことになる。
 零を使って暗黒街を牛耳ろうとするカタナ。
 他のことには無感動なハジキだが、カタナだけは気にかかり、関わろうとする。
 二人の少年は、互いを無視しようとしながら、お互いが気になって仕方がないのだ。
 それは二人が魂の深い部分で酷似しているからなのだが。

 零が現れた頃と時期を同じくして、「サユリ」という幼い少女がカタナの前に現れる。
 「力」以外の、世の中のものすべてを拒絶し憎むカタナだが、この少女だけは、なぜか自然に受け入れてしまうのだ。

 ハジキとカタナ、この二人の少年を両輪としてガドガードというストーリィは進んでいく。

 と、まあ、「ガドガード」とはこういった内容なのだが、とにかく最初は、よくある「若者たちの青春群像」的な作りが気に入らなかった。

 苦情を言い、権利は主張するが義務は無視する、という若者らしさも鼻についた。

 だが、謎の物質ガドに惹かれ、毎週番組を観続けたのだ。

 ほとんどのガドは、亜鉄鋼という中途半端な有機体と金属の化け物を生み出す。
 先に述べたように、ガドという物質は、人の意識がキーとなって発動し、得体の知れないエネルギーで動く、謎の物体なのだ。

 その間に、それぞれの登場人物たち(主に男女)が、お似合いのカップル同士となるというのは、お約束だ。

 やがて、ハジキは、ガドが死者の残留思念でも発動することを知る(先に述べたガラスの少女事件)。

 そして、ついに、主人公、真田ハジキの父ユウジロウが登場して、物語はエンディングに向けて収束し始める。

 ユウジロウは、ハジキが幼い時に、宇宙に向けて飛び立った飛行機の事故で死んだはずだった。
 だが、ユニット(ガド世界における街の単位)の外れの潰れかけたロケット基地で、地面を掘り続けるミイラ男は、確かにユウジロウだ。

 彼を見つけ、父ではないかという疑いを抱きながら真実を知ることを恐れるハジキは、事実を確かめないまま二人でロケット倉庫の地下を掘り始める。

 この時のハジキの表情は、タウンで運び屋のアルバイトをしていた頃のハジキとはまるで違う。

 そして、ある事故でユウジロウは怪我を負い、彼が鉄鋼人であることが路程する。

 その後、紆余曲折があり、カタナがサユリを取り戻すために電磁カタパルトに姿を見せる。

 と、その時、ユウジロウと一体化したライトニングが語り始める(通常、ガドガードは話さない、目で何かを語りかけるだけだ)。

「ガドは人の夢や願いで発現する。だが人の願いは一つではない。そういった矛盾をガドは理解しない」

 つまり、ハジキがガドに触れた瞬間、彼の願いは守護者、友人としてのライトニングと父という二つの存在を生み出していたのだ。

 サユリもまた、カタナがガドに触れた時に、彼の鉄鋼人であるゼロと共に生まれた鉄鋼人だった。

 サユリは地上に残り、かわりにハジキがライトニング=ユウジロウと共に宇宙に向かう。

 燃料は片道だけ、帰ることなど考えない片道切符だ。
 少女アラシに向かって、ハジキが言う。
「必ず帰ってくるからタウンで待っていてくれ」と。

 老朽化したカタパルトが崩れようとした時、ハジキの宇宙行きに反対していた少女が自身の鉄鋼人疾風を犠牲にして支える。

 そして、ハジキは無事宇宙へと旅だった。

 崩れ落ちたカタパルトからアラシを救ったのは、ゼロだった。

 彼は、手元に残されたサユリの手を引くと、壊れかけたゼロを残し林の中に姿を消す。

 長い間、自分の存在する場所を作ろうとしていた若者は、ついに確かな自分の居場所を見つけたのだ。
 それは物理的なスペースではなく、精神的な空間だったのだ。

 飛び立つロケットを、涙にかすむ目で見送ったアラシは、街に帰ることを決意する。
 今度はハヤテで飛ぶのではなく、自分の足で歩いて帰るのだ、と。

 そして、少年は地上に帰ってくる。

 ガドの最後の力を借りて。

 再び、少年の街での生活が始まる。

 だが、もう彼はもとの彼ではない。

 しばらくして、ハジキは、ひとりでカタナを探す旅に出る。

 ガドガードは、いづなつなよしのマンガチックな絵や、鉄鋼人がゲーム・キャラクタ的であることから幼稚な作品だと錯覚しがちだが、実のところ、見かけ倒しのSF作品より遙かに濃度の濃い作品だ。

追記:
 個人的に、最終回のラストで流れるジャズセッションは、かつてアニメの中で行われた演奏の中では白眉ではないかと思っている。

 曲にのって、カタナのために焚火で料理をするサユリが、不意に光の粒になって消えていく課程が描かれる。
 仕事を終え、焚き火の場所に帰ってきたカタナは、ひと目でそれを知り、呆然とし、やがてどっかと腰を下ろして、サユリの最後の料理をむさぼり喰う。

 このあたりの描写がまたいい。

 「ガドガード」

 機会があったら、絵柄を嫌わずに観てください。 お勧めします。 

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