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キャシャーンSins ~滅びに向かう世界~

 今、深夜枠で、新造人間キャシャーンのリメイク、「キャシャーンSins」放送されている。

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 正直いうと、わたしは、このキャラクターデザインが、あまり好きではない。。

 ヒロイン(ロボットだが)の目が大きすぎ、顔が逆三角形にデフォルメされすぎているからだ。

 なんというか、パワーパフガールズみたいに感じてしまうからだな。

 それがかえって、キャラクターのアンドロイドらしさを示してはいるのだが。

 一方、キャシャーンの特徴である華奢すぎるカラダのほうは、かなり、うまく表現できているように思える。

 絵柄はともかく、大切なのは内容だ。
 これが、なかなか興味深い。

 たくさんある謎が、どれも魅力的なのだ。

 リメイク版には、ほとんど人間が出てこない。

 こいつは「ヒトかな」と思っても、たいがいがアンドロイドだ。

 以前のキャシャーンは、ヒト対アンドロイドという構図だったが、今回はそう単純ではないらしい。

 公式サイトはココ

 
 ああ、そうだ。

 前作のキャシャーン(以後オリジナルと表記)ができなかったことを、今回のキャシャーンSins(以後Sinsと表記)はできるのだった。

 それはヘルメットを脱ぐことだ。

 オリジナルはヘルメットを脱がなかった、いや、脱げなかったことで、一見人間に見えるキャシャーンが、中身は本当にロボット(新造人間)で、あのヘルメットの中には髪の毛はないのだ、と子供たちに納得させる効果があった。

 オリジナルのエネルギー源は太陽エネルギーで、ヘルメットを使ってチャージしていたから、ことさらヘルメットは脱げなかったのだろう。

 ヘルメットとアタマがコードでつながっていたらちょっとシュールだものね。

(付け加えると、一度だけ、キャシャーンは上月ルナのMF銃を体の中に収納して持ち運んだことがある。やはりロボットだ)

 ちなみに、当初、キャシャーンは新造人間ではなかった。
 月間テレビマガジンの予告ではネオロイダーと記載されていたのだ。
 テレビ化に際して、広告会社の人間のアイデアで「新造人間」に変更されたらしい。
 このあたり、チャンピオン連載開始時に、ミクロイドZであった作品がテレビ化でミクロイドSになったことと似ている。

 とにかく、Sinsはヘルメットを脱ぐことができる。
 おまけに、ノーヘルの顔は、まるでセイントセイヤだ!髪の毛長すぎ!

 ストーリーそのものは、単なるリメイクモノとは一線を画す内容となっている。

 Sinsの世界観、キーワードはHOROBIだ。

 すべての生き物、ロボットが滅びの道を歩んでいる。

 この意味が、まだよくわからないのだが、何回か観ているうちに、どうやら、ロボットのカラダが異常に早く劣化して機能停止してしまうことをいっているらしいということは分かった。

 世界全体にゆるやかにMF銃が作用しているような感じだな。

*MF銃

 オリジナルでは、上月ルナの父、上月博士がアンドロ軍団を倒すために作り出した。
 基本電子頭脳核を自動分別し、ロボットのみを攻撃する銃である。
 基本電子頭脳核は自律駆動機械には必須部品であり、『アンドロ軍団』とて例外では無い。
 MF銃は、この基本電子頭脳核を分別し、特殊磁界内で爆融解させる事を可能とした超兵器だ。

 だが、キャシャーンは違う。不死身だ。

 出会うロボットすべて、旧タイプロボット型も人間そっくり(安部公房)型も、ともにボロボロとカラダが崩れ破損し続ける中にあって、キャシャーンの華奢な(しつこいって)純白ボディーは、本当に傷ひとつ、シミひとつ無い美しさだ。

 その美しさは、オリジナルと違って戦闘で傷ついても自動修復される徹底ぶりだ(ナノテク・ボディか?)。

 だが、カラダの強靱さにくらべてキャシャーンの精神は病んでいる。

 記憶を失っているのだ。

 キャシャーンは、以前の彼を知るものの口から、彼が、人間に反旗を翻したブライキング・ボスの命をうけて、上月ルナを殺したこと、それが原因で世界が滅びに向かっていることを知る。

 ルナ、一般に「月という名の太陽」と呼ばれている少女は、キャシャーンと同じ不死身の体を持っていた(ってことはロボット?)らしいが、彼女を殺してから世界が滅びへと向かい始めたのだという。

 絶望したキャシャーンは、死を望み、敵に我が身をさらす。

 滅びを免れるためには、キャシャーンを喰えば良い、という噂がひろまっているため(人魚の肉かよ!)、ロボットたちはキャシャーンに襲いかかってくる。

 だが、敵に襲われ危機に直面すると、キャシャーンは防衛本能スイッチがオンになり、すさまじいパワーを発揮して敵を粉砕してしまう。

 棺覆って定まる。
 まだ7,8話しか放送されていないので、どういうデキか評価するのは難しいが、あとしばらくは、話の展開を見守るつもりだ。

 このまま、世界観が破綻せず、謎がコケ脅かしでなければよいのだが。

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 この作品をご存じない方のために、第7話「高い塔の女」をちょっとだけご紹介。

 タイトルは、もちろん、1962年度のP.K.ディックの中期の傑作「高い城の男」をもじったものだろうが、内容的には一切関係がない。



高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

 ディックの方は、第二次大戦がドイツ・日本連合軍の勝利に終わり、アメリカが日独によって分割統治されている世界、いわゆるパラレル・ワールドを描いた小説だ。

 その世界に、いつしか連合国側が勝利したという小説がアングラで流行(はやり)だし、人々は、その話に奇妙な現実感を感じはじめる……

 例によって、ディックお得意の「自分の立っている足下が、奇妙にグラグラし始める」現実不安定化ストーリーなのだが、興味があったら、一度、読んでみてください。
 日本人が好意的に描かれていて、我々にとってはナカナカ気持ちの良い作品です。

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 Sinsに話をもどして、キャシャーンがルナを殺して数百年、地上のすべてのモノが滅びに向かい、建物は崩壊し、ロボットはスクラップになっていく荒野をさすらうキャシャーンとフレンダーの前に、いびつな塔が見えてくる。まるで、大坂富田林にある平和記念塔のようだ。ちょっと違う?
ファイル 209-2.jpg
(手元にあった写真を使ったところ、どこかのサイトの写真であったようで、警告を受けました。申し訳ありません。自分で撮ったものと混ざっていました。というわけで、さっそく、本日[2010.8.23]、富田林まで出かけて撮ってきました。↑ついでに下から見上げた写真も撮りました。やはり巨大ですね↓)
ファイル 209-3.jpg

 不思議な気持ちで、塔を見上げるキャシャーン。
 そこへ、ナッパ服、もとい作業ツナギを来た女性(やっぱりアンドロイド)が現れ、「この滅びの世界にも、まだ美しいものがあることを皆に示したいから、あの高い塔の上に鐘をつるして、リンゴン、リンゴンと美しい鐘の音を響かせたい」
と、告げる。

 キャシャーンは、「この世界を美しいというひとに初めて会った」と、引き留められるまま、彼女が鐘を鋳造するのを見ることにする。

 だが、彼女、リズベルの目的は、美しいキャシャーンのボディを、鐘の材料にすることだった。

 工場が止まり、することもなく電子頭脳にも狂いが生じて賭けポーカーばかり続ける半スクラップの作業用ロボットを襲って手に入れた、デキの悪い材料では、良い鐘ができないと彼女は考えたのだ。

 リズベル自身、凶暴にこそなっていないものの、話し方、思考方法などから、かなり電子脳に滅びが入り込んでいるフシがある。

 キャシャーンを罠にかけ眠らせた彼女は、鐘の材料にしようとするが、実はキャシャーンは眠ってはいなかった。

 リズベルを拒絶し、高い塔を後にしたキャシャーン。

 しばらくして、彼の耳に不気味な鐘の音が聞こえてくる。

 貴金属を含まぬ作業用ロボットを材料に作り上げた鐘は、粗悪なものだったのだ。

 騒音に怒り狂ったロボットたちに、塔から突き落とされるリズベル。

 地面に落ちた彼女の上に、追い打ちをかけるように巨大な鐘が崩れ落ちてくる。

 フレンダーと共に塔に戻ったキャシャーンは、鐘を取り除いてリズベルを助ける。

「ひどい音だったわ」と自嘲する彼女に、キャシャーンはいう。

「僕の耳には、美しい鐘の音に聞こえた」

 キャシャーンが去り、新たな旅人が塔を訪れると、リズベルが現れ、塔に登ってみませんか、と誘う。

 リズベルは、先にたって、足を引きずりつつ塔を登っていく。

 あの落下の衝撃、鐘の激突によって壊れたのか、それとも彼女にも滅びが近づきつつあるのか、それはわからない。

 塔の上からの景色に感嘆する旅人たちに、リズベルは「この塔には鐘があるから、鳴らしてみませんか」と微笑む。

 見上げる旅人。

 もちろん鐘はない。
 汚い色の鐘は塔の下に転がったままだ。

 リズベルは、鐘のひもを引く真似をして口ずさむ。
「リーン、ゴーン、リーーーン、ゴーーーーン」

「もう鐘はいらないの。心の中で、わたしの鐘は美しく鳴り響いているから」

 こういった、滅びの美を描かせると、日本人は、なんと美しく表現することができるのだろう。

 誰でも、といえば、脚本家と演出家をバカにすることになってしまうが、関西で食べるうどんほどに、当たりはずれがほとんどない。

 もう一度書くが、この調子で、Sinsが進んでくれることを望みます。

 ああ、あとひとつ。
 キャシャーンの声をやっている古谷徹氏は適役です。
 声優に年齢なんて関係ないなぁ、ということは、先日、車を運転しつつ、新「犬神家の一族」の声だけを聞いた時にも感じました。加藤武も石坂浩二も、30年前とまるで変わっていなかった。

 オープニング曲の「青い花」も、素直な歌詞と、既存の曲から離れようとするあまり、奇天烈なメロディラインになったものの、歌のうまさに救われて名曲になってしまいました。

 わたしは好きです。

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